【依頼品】5’3″⇔4’7″可変ショートロッドに込めたバランス理論・感度理論

2025年2月21日ロッドビルド論,ロッド作品

自作パックロッド

【依頼品】仕舞寸36cm 5’3″⇔4’7″バーサタイルスピニングロッド
Cast Wt. 3〜27g Wt. 132g(5’3″) 125g(4’7″)

この竿は一見ふつうのパックロッド(といっても仕舞寸36cmはまだまだ珍しい部類かな)ですが、自分なりの最新のバランス理論と感度理論を盛り込んで組み上げたつもりです。竿の紹介を兼ねてそのあたりを少し言語化しておきます。

バットセクションは2種類で、交換することでレングス可変。ガイドがついていないので、ラインを通したまま可変できます。
5’3″モード
4’7″モード
4’7″モードのバット
デザイン系統はツララ・ボンバダ系ですが、アワビ貼りで私の製作らしく。
スレッドはグレーで、アワビに合わせた偏光スレッドのピンライン

ツララ、ボンバダ系がお好きな方からのご依頼でした。軽いルアーでも曲げられて、広く使えて、しっかりした造りがご希望とのこと。また可変レングスが良いということで、どう組もうか考えていました。ショートロッドでしっかりした竿というのは作るのがけっこう難しいのです。長い竿に比べてより短い区間の中で求められる性能を満たし、かつ扱いやすい柔軟さやタメも作ってあげないと、ただの棒になってしまいます。

まず素管は、高密度S2グラスでつくられたNFC製フライブランクスを採用しました。グラスらしいタメがあり、軽さを求めた肉薄構造ではなくしっかりと詰まったブランクスです。それでいてダルくないのが美点です。8’6″ 4ピースの上2本だけを使い、分割。そこへ印籠芯による強化と塗膜厚の調整によって、フライ用ゆえのバットの張り・質量不足を補いました。

自作パックロッド
塗装前の状態。この色もいいんですけどねぇ

スピニングの可変レングスは、ガイドセッティングが難しいです。チョークガイドまでの距離及び角度が変わるので、巻き取り時にカクつかず、キャスト時も綺麗にライン収束させるには工夫が必要です。特にこれは仕舞寸が短いので、50cm台のパックロッドよりできることが限られます。

そこで採用した設計が2つ。1つはバットから2つ目のガイドまでで一気に絞り切るストロー風セッティングです。複数のガイドでチョークさせるとどうしても可変時に角度がついてしまいますが、1つ目のガイドで絞り上げ、2つ目で整うセッティングなら多少の角度差による影響は抑えられます。

ストローガイドセッティング
高足のガイドは1つのみ。仕舞時に嵩張りにくいのもいいですね。試投の結果、狙いはほぼ達成されていました!

もう1つは、SNSに何度かアップしていました秘蔵のTULALA製前傾シートです。ご縁あって譲り受けたものを、これが似合う竿が出てくるまで温めておりました。リールが前傾することで、バットガイドが近くてもラインが綺麗に飛び込んでいきます。依頼主様の嗜好にも合いそうなので、この竿しかない!と思いました。

かなり前掲している感じがわかると思います。これでバットガイドを近づけても綺麗に収束します。

今回のご依頼で、ボンバダ社のロッドをデザインやグリップ長などの参考としてご提示頂きました。ボンバダといえばヤジロベエ理論によるロッドバランスが有名です。手元に重心位置をもってくるというのが基本として語られています。ただ個人的にはこの理論はもう少し深い内容なのかな、と考えています。

ボンバダロッドの特徴は、長め重めのグリップ、しっかり入ったバランサー、肉厚で張りがありつつもタメの効くブランクスです。一般にショートロッドは、軽く、最近記事にした「モーメント」も非常に小さく、軽快に振ることができます。一方で、張りのあるショートロッドは曲げ込みにくく、復元時間も短くて扱いにくくなりがちです。またモーメントの小ささが災いして、手元が安定しにくいというデメリットもあります。これを解消するのが、グリップエンドを重くしてリール付近を支点にした完全バランスをとるヤジロベエ理論かと思っています。(テル氏に聞いたわけではないので眉唾かもしれませんよ!)

重い部分は操作において動きにくく、動き出すと止めにくくなります(慣性の法則)。グリップが長めでバランサーも搭載した重めのブランクという構成は、前述の手元の不安定さを抑制します。そして不足しがちなキャスティング時のエネルギー入力を、自重そのものとグリップエンドの引きで補ってくれます。またジャーキングにおいては、ハンマーのように振り子動作のエネルギーを大きくするウェイトとしても機能すると考えています。海外の強力な魚に対し、なるべく楽に釣り続けるための合理的なバランス思想ではないでしょうか。

しかしこのロッドでは、軽量リグの操作感を消したくありません。基本的な素管の特性やグリップの見た目、長さなどはボンバダロッドと同じなのですが、全く同じ思想では軽量リグの繊細な操作感や荷重変化を感じにくくなります。たしかに動かさない状態のバランス(静的バランス)は良いでしょうが、エンドバランサーは微小な変化を感じる使い方に向かないと考えています。

そこでこの竿には、独自のバランス理論を与えました。まずこの前傾リールシートは、単体で約40gとかなりのヘビー級です。しかしそこに更にカーボンパイプを段重ねにして質量を追加しました。追加箇所は、リールフット後端あたりが中心です。グリップはセパレートにせずストレートコルクとし、グリップ全体に程よく質量を分散配置し、バランサーは無しでゴムより軽いEVAエンドとしました。結果として、重心位置はヤジロベエ理論のようにほぼ手元となりますが、リールを支点とした慣性モーメントは小さくなり、かつ重みがグリップ全体にほどよく分散されます。支点付近以外で妙に軽い場所、重い場所というのがありません。結果、バランサーがないのに約100gという重量級グリップが完成しました。静的なバランスや手元の安定感ははヤジロベエ理論と同等かそれ以上。しかし振った際にはより軽快で繊細な操作を受け付け、特定の動作だけでなく全体としてスムーズに扱えるようになります。竿によって正解は様々ですし、アマゾンならヤジロベエ理論の方が優秀だと思いますが、こんなセッティングもあっていいのではないでしょうか。

初期はアルミパイプも検討しました。さすがに重すぎましたが(笑)
5’3″モードのバランス リールは175gの2000番。3000番まではベストマッチです。
4’7″モード。こちらはもう完全に手元ですね。

またグリップ内部構造は、SNSやブログでお世話になっているぽとぽんさん考案のフローティンググリップシステム、通称F.G.S.を再解釈した構造としています。F.G.S.は概略でいうと、リールシートによる振動減衰を極限まで抑えるため、アーバーを片持ち構造にしてリールシートをブランクから浮かすという独創的な発想です。本当の意味でのブランクタッチを実現する大変興味深い機構です。

今回は構造的には似ているのですが、発想は逆で「振動を余すことなくリールシートに伝える」という狙いで組み上げました。リールシート内は前述のバランス調整も兼ねて、リールフット下端あたりを中心に固めてあります。リールシート上端はブランクが触れないようになっており、曲げ込んだ時のみゴムシートで接触するようになっています。原案のようにブランクタッチはしませんが、微細な入力に対しリールシートが驚くほどブルルッと強く振動するようになり、大成功です。5ft前半で132gもあるグラスロッドとは思えない振動伝達でしょう。最後は少しデチューンまでしました。またこの構造の副次効果として、グリップ内部まで曲がるため、実質的な曲がりしろを稼いでショートロッドの弱点を補うことにも繋がっています。

よく振動感知による感度を「反響感度」といいますし、私もその用語を使ってきました。ただ、人がタックルから感知する振動は「反響」ではありませんよね…。いかに振動を、強く、クリアに、必要なものだけ伝えるか。これまでは軽さと周波数に注目して感度向上を図ってきましたが、今回はむしろ重たい構造です。感度の出し方も様々で、他の性能と兼ね合わせながら最適な感度設計を行う。それがここしばらくの目標となっており、このグリップ構造もその方法論の1つとなります。また作品を通したビルダー同士の交流でもあり、本当に楽しいしレベルアップさせてくれますね!

改めて、アイデアを使わせて頂けることに感謝ですm(_ _)m

↓ぽとぽんさんのブログ

微妙に浮いているのがわかるでしょうか。
グリップジョイントなのに逆並継という不思議さです。

見た目は一見ふつうの大味なロッド、しかし中身は繊細かつ新機軸。そんな一振りに仕上げたつもりです。