【依頼品】仕舞21cm 和柄 渓流ベイトフィネステレスコロッド

2021年1月14日ロッド作品

今回は下の記事にある自作ペンロッドをご覧頂いた方からのご依頼で、渓流ベイトフィネス用ロッドを製作させて頂きました。

まずはTwitterのDMで仕様を細かくやり取り致します。主なご要望はこちら

◎本州渓流〜源流でスピナーやDコンを使用

◎コストは抑え目で

◎グリップは藤巻き

◎手が大きいので握りは太めに

◎和風テイストで。若草色がお好み

これを基にどんな風に仕上げたか、製作過程をご紹介します。

1.ブランク素材の選定

使ったのは自分用ペンロッドと同じ信頼の超小継テレスコ延べ竿、小技小物140超硬です。この竿は穂先を変えることで1ozクラスのルアーを扱えるほどのパワーと強度を発揮します。

穂先はカーボンソリッドかチタンで検討しました。感度の求められる釣りではありませんが、源流の高巻きはロッドの破損リスクが高いこと、また強いブランクスを適度な穂先の重みで曲げていけるようチタンを選択しました。

2.レングスとグリップ延長機構

ペンロッドクラス最大の悩みどころは「いかにグリップ長を確保するか」です。普通にリールシートを載せてしまうと、仕舞寸の半分以上をリールシートで埋めてしまい、グリップに残された長さは10cm以下になります。そのままでは非常に使いにくい竿になってしまいますが、グリップだけ伸ばしてしまえばせっかくの仕舞寸が台無しです。

自分用の小技小物はワンオフ部品や端材を利用しての製作で、再現性と安定性がありません。ご依頼を頂くにあたりいくつかのギミックを考えていましたが、何度か打合せを重ねた結果、バットのピースをグリップ延長ギミックに利用することにしました。

上述の通りこの竿はかなりパワーがあり、渓流源流ではややオーバースペックでした。バットを1つ抜くことで、ロッド全体のパワーが落とされます。またフィールドを考えると4ft台前半は使いやすいと思われ、一石三鳥です。これに伴い当初はACSリールシートで考えていたのをPTSリールシートに変更させて頂きました。ACSはトリガーがオフセットされておりグリップ長を稼ぎやすく、またトゥイッチ操作にも適していると考えての採用でしたが、好みが分かれ、特に手が大きい方に合いにくいという欠点があります。ギミックによりグリップ長の心配は無くなったので、手が大きい方にも合いやすいPTSとした次第です。

というわけで基本が決まり、部品を調達していよいよ製作です。

3.リールシートコスメ

まずはリールシートから。和柄で製作するといっても色々な仕上げ方が考えられますが、1つ試したいことがあって独断で試させて頂きました。

金箔銀箔リールシート
リールシート金箔銀箔風コスメ

プライマー→ツヤ有黒ラッカーと塗装して、塗装が乾かぬうちに金箔銀箔(残念ながら本物ではありません^^;) を乗せていきます。そこにウレタンクリアを何度も吹いて、高級漆器のようなリールシートの完成。ヌラヌラと深みのある光沢がいい感じです。

4.ブランク塗装

小技小物はピンクを基調としたコスメがなされています。今回は若草色がテーマ色なのでこれを変えていきます。本当はスレッドで飾り巻きを施したいのですが、小技小物のテレスコは継数が異常に多いため、スレッドを巻くと縮めた時にすっぽり入らなくなります。(これはガイドセッティングでも注意すべきところです。) 純正でもコスメは全て塗装かインレタでした。結論として、各玉口のピンク塗装を上塗りでグリーンに変えました。

ロッドブランク塗装
縮めた状態でマスキングして一気に塗ります
ロッドブランク塗装
ネットの海で見つけた技

剥がれないように最後はウレタンクリアを吹きますが、竿全体に吹いてしまうと仕舞時に干渉が起きてしまいます。また無駄に重くなってしまいます。全て塗装を落としてから再塗装する手もありますが、純正はグラスの薄肉アンサンド素材にクリアを吹いた状態なので下手に剥ぐとブランク強度を落としかねません。そこで純正塗装はそのまま玉口だけの上塗りとし、上の写真のようにマスキングをぴったり貼らずに浮かせて、クリア塗装の境目をぼかして吹きました。まぁ私のアイデアではなくネットで見た知識です。

ロッドブランク塗装
いい感じです

5.グリップ延長ギミック

ここが今回の核心部です。現物を見ながら寸法を慎重に検討したのち、バットピースは握り部をカットします。そして必要部品を以下のように用意。

グリップ延長ギミック

バットから2番目のピースにリールシートをマウントします。ピースにはテーパーがついていますが、リールシート内径はストレートなので、それを合わせるために折れブランクを使い画像左真ん中のようなスペーサーを製作しました。スペーサー内径はブランクと合うテーパーに、外径はストレートに近くなるよう削り込みました。

特徴的なのは、このスペーサーはリールシート部品の上半分くらいまでしか長さがありません。下半分はブランクから浮いた状態になります。フローティングシートシステムとでも名付けましょうか。この下半分のスペースとグリップ内側のスペースに、元のバットピースが潜り込んで仕舞われます。

画像右上のカットしたバット部にはエンドキャップのネジ山部品がありますので、これは内径を研磨して移植することにしました。

ここから更に、グリップの握り部分を乗せつつ、グリップを引き伸ばした時に固定するための構造を作ります。

グリップ延長ギミック
ここが一番苦労したとこ

色々考えた結果、上が組んだ状態です。リールシート下半分に太い廃竿ブランクを接着し、そのブランク内側にゴムシートをしっかり接着します。ゴムシート内径は元バットピースのエンド側と径が合わせてあり、また元バットピースの玉口も塗装厚を利用して径を合わせました。これで仕舞時はゴム内側とバットピースエンド部外側の径が合い固定されます。伸ばした時は玉口外側がゴムシートに、内側がリールシートを接着しているピースに挟まれて固定されます。さらにここがリールシート後端も支えますので、使用時はリールシートが2点支持されるため剛性感もあります。ゴムシートの厚みと摩擦力の調整がシビアでしたが、うまく研磨で合わせられました。

加えてゴムの弾性があるので、使い込みによる摩耗があってもカチカチ音が出たりするリスクは少ない…と期待してます。

延長グリップ構造
こんな構造。リールシートから延びるパイプ部の内側にゴム貼ってます。

6.グリップ製作

まずは藤を巻く土台を成形していきます。ショートグリップはある程度重いほうが手元が安定すると思っています。また感度や軽さを追ってはいないので、今回は凧糸による成形としました。

グリップ成形
1周目

凧糸って材料ケチった手抜きだろ?と思われるかもしれませんが、実はわりとポピュラーです。凧糸に瞬間接着剤(ジェルでなく液体タイプ)を染み込ませると、カッターやヤスリで削れるくらいカチカチになります。感度を求めるときのアーバーとしても使えるくらいなんですよ。同じような使い方で新聞紙なんかも和竿作りでは定番です。

グリップ成形
段差のあるところはパテも使用

最終的にこんな感じで、丸くかわいい形状にしました。オーダーに基づきかなり太めです。デザインを考え、握り部とエンド部の大きさをだいたい揃えています。純正のロゴも残せました♪エンド側が重過ぎるとこれまた操作性が悪くなるので心配でしたが、試し振りでは大丈夫そうだったのでこのまま進めます。

ここから藤を巻いていきます。詳しい巻き方はいい記事が色々あるのでググってみてください。

藤巻きグリップ

藤がちょっと足りない…!あ、いい事考えた!

藤巻きグリップ
アワビは全てを解決する、とは私のビルドにおける格言です()

今回はコストダウンも必要でしたのでワインディングチェックを使うか迷っていましたが、それもこのアワビで一挙解決です。端っこに光りものが入ると締まりますね。

さて、このままでもカッコよかったのですが、せっかくオーダー色を頂いていたので一手間加えてみます。

漆塗り
緑漆!

コーティングの漆をまず緑でやっていきました。かなり奇抜な感じになってしまいますが、一旦このまま複数回塗り重ねていきます。漆は硬化に時間がかかりまた厚塗りもできないのでのんびり取り組みます。

※漆と呼んでいますが、正確にはより安価で使いやすい合成漆(カシュー塗料)です。エイジングと数十年レベルの耐久性には劣りますが、天然素材ベースで、本漆より耐光性に優れ、圧倒的に扱いやすく、近しい仕上がりが得られます。

漆研ぎ出し
1回目の研ぎ出し。まだ荒いです

3回ほど塗り重ねたところで、粗いヤスリで一気に研ぎ出します。すると藤の部分は藤の繊維が露出し、目地に緑漆が残った状態となります。このまま微調整しながら研ぎ出しと塗りを繰り返していき、2トーンのグリップにしていきます。凹凸もこの工程でとれていき、滑らかになります。この工法は和竿の握りを作るのにベーシックな方法ですが、普通は茶色や黒で目地を埋めるのでちょっと特殊です。研磨しないで藤の凹凸と色味を残す方法も良いのですが、今回は敢えて。

研ぎ出せたら、最後に本透明と呼ばれる薄茶の漆をコーティングとして重ねていき完成です。青っぽかったアワビ部分も本透明をかけることで緑っぽくなります。まだまだ和竿職人としては恥ずかしいレベルですが、それなりにわびさび感のある渋い握りに仕上がったかと。

本漆に近い柔らかな光沢、人工樹脂に負けない耐久性、ほんのり錆び感

7.ティップ製作

チタンは信頼の吉見製作所さんの元径φ1.5モデルをカットし、先径0.9mm全長12cm程度に落ち着きました。テーパーはほぼそのままですが、わずかにティップ先端付近を細くしています。根元はコミが少し緩かったので、カチカチで信頼のデブコン30ミニッツエポキシを盛って研磨して調整。

セッティングは私の好みで一旦作っていますが、使って頂いて合わなければ調整します。超コンパクトなため送料が安くて済むので、そういうこともOKです。

チタンティップ加工
エンドはきれいに丸めましょう。そこから折れたりしますので

8.ガイドセッティング

いよいよ最後、ガイドセッティングです。テレスコでガイドをつけるのは最後の工程です。ガイドを固定してしまうとグリップ周りの部品着脱ができなくなります。

ガイド選定は製作費用に大きく影響します。相談の上、ここを工夫しました。

ライン負荷のかかるトップをチタントルザイトのT2-LFTT、バットガイドをSiCのGMTMとし、残りをOリングのTMガイドとしました。

トップは足のないタイプを使います。これにより仕舞時に穂先がすっぽり隠れるので、携行時の破損リスクが大幅に減ります。もちろん糸絡み防止性能は落ちますので良し悪しですけどね。今回は相談の上、足なしです。極小トルザイトより本当はもう少し径の大きいSiCがほしいよフジさん…。

TM系は直立ガイドです。糸絡み防止と見た目のカッコよさのため、慎重に手曲げします。お金をかけなくても手間をかければ見た目も良くなります。

これが
ガイド研磨
こう!

※正直、TMガイドではお勧めしません。私も1つリング割り、ステンレスと樹脂の剥離が起きました…。

糸巻きガイドではスレッド幅分まるごと仕舞寸が伸びてしまいますので、遊動ガイド一択です。これを更に削り込んで、ギリギリの仕舞寸を実現します。ただ正直、削り込みに対する強度と接着性は最新のカーボン樹脂製IMガイドに劣ります。なるべくということで、接着はチタンと同じくデブコンに、更にカーボン粉を練り込んで食い込みを上げました。万一取れたりした場合は直しますからね!

トップは塗装であれば干渉しないので、夜光蛍光塗料を混ぜた黄緑色の漆で軽く装飾。夜に使うことはないでしょうが、ほんの少しのアクセントです。

チタントップガイド
気持ちね

9.完成

というわけで完成です!

渓流テレスコベイトロッド

小技小物140超硬カスタム "雅作 若草"

全長: 4尺8寸(4ft7in 140cm)

仕舞寸: 21cm(+キャップ)

材質: Sグラス+チタン

アクション: ファースト〜可変

適合ウェイト: 1g〜10g

画像のようにリールをつけたままでもきっちり穂先が隠れるので、このままドラグを緩めてリールカバーをかければバッグに放り込めます。渓流高巻きではアドバンテージになると思います。張りがあり、かつグラスの柔軟性も備えたブランクです。また感度が無駄に(?)いいので、ファイト時の魚の挙動はよく楽しめるかもしれません。

合成漆塗りの藤グリップは本漆ほどの美しい経年変化はありませんが、大切に使えば藤も徐々に色が濃くなっていき、味わいのある竿となっていくでしょう。

伸ばした状態
こっそり名入れ…。
参考のベンドカーブ

ガイドセッティングは通常のストレートセッティングもできますし、スパイラルにしてもOKです。スパイラルの場合は画像のように90°ずつ旋回させます。個人的には右投げでしたら左旋回をおすすめします。

スパイラルガイド

コストを抑えるため高級ガイドやワインディングチェックはほぼ使わずに仕上げましたが、安っぽさはないと思います。

グリップはセパレート前後のサイズ感を合わせたことで独特の使用感があります。ワンフィンガーだと薬指小指に力が入りにくいため少し投げにくいかもしれません。ツーやスリーでしたら問題はないと思いますが、気になる場合は作り直しますのでお申し付けください。そのぶん手首周りの自由度は高いです。短いグリップでもファイト時は太いエンド部を手首にきっちり固定できるので、パワーファイトもOKです。

ツーフィンガーでこんな感じ

また裏技として、グリップを敢えて伸ばさずに使うとファイト時に手首だけで耐えることになるため、小型の魚でもスリリングなやり取りが楽しめますよ。

延べ竿的な手首を使った操作感

なお伸ばす際は2本目の飾り線が見えるあたりまでにしてください。強く伸ばし過ぎるとブランクを破損する危険があります。

グリップ伸縮はこんな感じ。飾り線が基準です。

この度は大変楽しいご依頼をありがとうございました!製作中は何度も仕様のご相談でお手数をおかけしました。渓流で素敵な魚との出会いに役立てば何よりです。