竿のトルク論争に終止符を。トルク感の正体を予備校講師ノリで考える。

2025年2月12日ロッドビルド論

2025.2.20追記 下記のブログが続きになっています!

くだらないタイトルをつけてしまいました…。

よく言われる「竿のトルク」とはいったい何なのか。この竿トルクあるね〜魚が楽に浮いてくる!みたいな感じで使われますが、これは釣り人特有の非常に曖昧な表現です。定義がはっきりしておらず数値化もされない「感覚」でしかないため、人により何をもってトルクと呼んでいるかもバラバラだと思われます。この時点でトルクを万人に対し理屈で説明するのは不可能かもしれません。しかもネットの記事を見ると、竿の製作側の発信ですら本来の物理学における意味を無視したり、謎の数字や式を持ち出したりして説明しています…。ですが可能な限り、この曖昧に使われている表現を本来のトルクという物理量を用いて表現し、「トルクのある竿」とはどんなものかをまとめてみたいと思います。

話の中で、中学高校の物理にあたる用語や概念が登場します。なるべく釣り人に感覚的に伝わるように書きたいので、たとえ話や余談が好きな、口の悪い予備校講師っぽく書いてみようと思います。(笑)

※例のごとく素人の戯言です。私自身、高校では物理基礎の授業をほぼ寝て赤点ギリギリでやり過ごし、理系のくせに物理は未履修だった人間です。終止符を打つつもりは毛頭ありません。話半分で読んで、違うと思ったところはご自身で解釈し直して下さい。そしてぜひ御指摘頂けると幸いです。

トルクとは?トルクのある竿とは?

そんじゃあ今日の講義始めるぞ〜!まず、今日のテーマである「トルク」って何なのかをはっきりさせようか。そもそも君たちはどんな竿をトルクのある竿だと思ってるんだ?言ってみろ。

なになに、復元力がある?リフティングパワー?よく曲がる竿?粘る?魚が暴れない?楽に浮いてくる?低弾性?グラス?ソリッド?ずいぶんテキトーだなおい。あ?トルクフルな竿?トルクって何か聞いてんのにトルク使ってんじゃないよ(笑)

わかっただろ?釣り人にとっちゃあトルクなんてのは感覚にしか過ぎねーんだ。でもよぉ、本来トルクってのは物理の教科書にも載ってるちゃんとした物理量で、数値で表せるんだわ。

テコの原理は知ってるよな?小学校で習ったはずだ。テコには3つの点があったな?

そう、支点、力点、作用点だ。簡単に言っちまえば、支点は支持されて動かないところ、力点は力をくわえるところ、作用点はその結果力がはたらく(動く)ところだ。シーソーの例で学んだよな?

出典:名古屋市科学館HPより

作用点が支点に近いほど、少ない力で持ち上げることができたんだったよな?代わりに持ち上げられる高さは低くなっちまうが。力点と作用点のバランスは、力の大きさと、支点からの距離の掛け算で考えることができる。どうだ、思い出したかい?

出典:マイナビ中学受験ナビより この図ならシーソーは右側に下がるな

釣り竿によって魚を持ち上げる動作ってのは、このテコの原理で考えることができるわけだ。釣りの動作において支点や力点がどこか、ってのは意外と複雑なんで、今日の話では無視しておこう。なるべく単純にして、とりあえず竿のグリップエンドあたりが支点ってことにしよう。ついでに竿自体の重さも一旦は無視しておこうか。

支点と力点はテキトーだ。これはこれで奥が深いぜ。

このテコの原理は、高校で物理を習ってた人はわかると思うが、「モーメント」なんて呼ばれ方をする。モーメントとは、「物体を回転させる力」だ。なんか難しく聞こえるかもしれねぇが、言ってることは何も小学校と変わっちゃいねぇ。上の図にあるようなシーソーも、支点を軸に回転する運動だろ?そして、釣り竿で魚を持ち上げる動作もだ。回転運動するときの力のはたらきをどう考えるか。そこでトルクという言葉も登場する。

モーメントとトルクは大雑把に言えば同じ言葉で、物体を回転させる力のことだ。これは次の式で表される。

(トルク[Nm]) = (力の大きさ[N]) × (軸からの距離[m])

式で書くと難しい!って思っちゃうかもしれねぇが、よく見てくれ。小学校ではシーソーで重さと軸からの距離を掛けてただろ?全く同じなんだよ。シーソーに限らず、モノを回転させる時の力は、力の大きさと軸からの距離の掛け算で決まるってことだ。

出典:機械設計エンジニアの基礎知識より ボルトを回す力も同じ考え方だな。ロングハンドルが巻き取りやすい理由や、ベイトリールのスプール径とレスポンスの話もこれで説明できる。

ここで多くの人が勘違いしていると思われることを話そう。「トルクを発生させているのは何か?」だ。

え?竿でしょ?そう思ったんじゃないか?そうだよなぁ、今日の講義は竿のトルクについてだ。だがよく考えてくれ。トルクは「物体を回転させる力」だ。竿を回転させてるのは誰だ?そう、君(と魚)だ。竿は回転させられている物体。トルクを発揮してるのは、人なんだよ。竿のトルクなんてもんは存在しない。幻想なんだよ。

いやおかしいよ!竿の復元力が強いとかってプロも言うじゃん!なるほど、たしかに竿が復元する力で魚を持ち上げている。それはそうだ。だがもう一度言葉をよく見てみよう。復元力とは文字通り、復元する力だ。竿は曲がることで元に戻ろうとする力が生まれる。では竿を曲げているのは?そう、君(と魚)だ。竿が発揮する復元力は、与えられた力以上に発生することは絶対にない。ちょっとだけ物理っぽく言うと、エネルギー保存の法則だ。復元力は、人(と魚)が入力したエネルギー通りに発生し、大きさはほぼイコール(なんなら厳密には空気抵抗やら熱やらの損失でちょっと減るぞ)だ。人が力を加えない限り、竿は力を発揮しない。

まとめよう。「トルクのある竿」なんてものは存在せず、「人がくわえるトルクが小さくて済む楽な竿」があるだけなんだ。

なんだか冒頭からキツネにつままれたような感覚かい?なにも俺だって、細かい言葉の意味や解釈で揚げ足を取りたくて言ってるわけじゃねぇんだよ。人が(想定していたより)楽に魚を上げられたら、あたかも竿が力を貸してくれたように感じるだろう。竿を絞り込むほどに力が増すように感じ、それで魚を制したなら、竿の復元力を体感すると思う。それに人の存在を無視して、曲がった竿に魚がぶら下がってると考えれば、たしかに竿が復元して魚を回そうとするわけだから竿のトルクと言えなくはない。次のコーナーで話すが、その感覚自体は間違ってないんだ。それをトルクのある竿、と呼んでもぶっちゃけ別に良いと思う。言葉は正しいかより、伝わるかが大事だろう。だからここの管理人もトルクのある竿という表現は使う。ただ、このあとの話を考えるうえで「力を発揮しているのは竿じゃなく人」という事実は非常に大事なんだ。そこだけ腑に落ちてくれればOKだ!よし、5分休憩!

図と計算で示す、楽な竿①

さぁ、中盤戦といこう。ここまでの話を踏まえたうえで、どんな竿が「小さいトルクで魚を持ち上げられるか」を考えていこう。つまりは人にとって楽な竿であり、魚の引きによるトルクが小さくなる竿だ。魚のトルク≦人のトルクになれば魚は浮いてくる。早速だが、以下にAとBの図を示す。繰り返すが、単純化のために竿の支点(軸)はグリップ、竿の質量はゼロとしよう。ついでに糸も質量ゼロ、伸びも無し、魚とラインは穂先から鉛直(真下)方向だ。魚の引きの強さも計算を簡単にするため、1Nで固定しよう。(ずいぶんラクショーな魚だなおい)

Aの竿は1mで、一切曲がらない棒竿、Bの竿は2mあり、こちらも一切曲がらない竿だ。どちらも竿を水平に構えていて、グリップエンドからラインまでの距離は竿の長さと同じだ。これで「魚が竿にくわえているトルク」を計算してみてくれ。

そう、Aが1Nm、Bが2Nmだ。

人が魚の引き以上のトルクを竿にくわえると、魚は浮いてくる。単に力の大きさじゃなく、トルクで考えるのが大事だぞ。このような単純なモデルで考えると、同じ魚の引きであっても竿の長さを半分にすれば、半分の力で持ち上げることが可能なんだ。短い竿のほうが小さいトルクで魚をリフトできる(パワーがあると感じる)。これはショアアングラーにとっては意外かもしれないが、オフショアやる人ならわかるだろう。バーチカルなジギングで10ftの竿を使う人はいないはずだ。

(・へ・) …。

またキツネにつままれた気分かい?そうだよな、竿は曲がるものだ。棒竿で議論しても違和感があるだろう。そして一般に、曲がる竿のことをトルクフルと表現するだろう。それが次の図、今回の講義で一番理解してほしいところだ。

Cの竿は、Bと同じく2mあるが、よく曲がる竿だ。Cが曲がった結果、ライン(の延長線)の位置はAと同じになった。さぁ、魚がくわえるトルクはいくつだ?

ほら、1NmでAと同じになった。

つまり曲がる竿は、支点からの距離が近づいて魚のトルク(=それに対抗する人側のトルク)を小さくできるんだ。同じ魚でも楽に上がってくる。これこそが所謂トルク感の基本的な正体だ。な、曲がる竿がトルクフルに感じる、ってのは基本的には間違っちゃあいないんだ。

ここさえ共有できれば俺は満足だ。どうだい?もし間違ってたら教えてくれ。

図と計算で示す、楽な竿②

さて、この講義も終盤戦だ。ここまでの話を素直に受け止めたら、疑問に思うことがあるはずなんだが、誰か思わなかったか?そう、CでなくてもAの竿でいいのでは?って。

単純に魚の持ち上げやすさであれば、そのとおりなんだ。究極的にはリールだけ持ってそのまま引っ張り上げればいい。竿が曲がるかどうかは、距離さえ揃っていれば基本的に関係ない。

だがそれは違うと俺は考えている。そもそも1mの棒竿なんて使いにくいだろって?そうだよな、ほとんどの釣りでそんな竿は不便だ。釣り竿に求められるのはファイト時の性能だけじゃない。あらゆる性能を満たすにはある程度の長さと曲がりが必要。そういう答えでも十分正解だ。だが、仮に使いにくさを無視し、支点からのが距離が同じだとしても、曲がる竿の方が魚を持ち上げるのに有利なんだ。下の図を見てくれ。

この図だと完全にのされた竿に見えてしまうが、そこは計算を楽にするためなので余力はあると思ってくれ

これはAとCで魚の引きが2Nに増加した場合だ。現実に魚の引きはファイト中に大きく増減する。リアルな状況をモデル化したわけだ。Cの竿は更に曲がって、ラインの延長線と支点間の距離は0.5mになっている。もう一度魚がくわえるトルクを計算してみようじゃないか。

OK、Aは2Nmに増加、Cはなんとそのままの1Nmだ。

そう、竿が魚の引きの増加に合わせて更に曲がりこめば、支点からの距離も小さくなってトルク増加を抑えてくれるんだ。これは曲がる竿の大きなメリットで、トルク感のもう1つの正体といえるわけだ。

よくトルクがあると言われる竿に対する評価で「引きを吸収してくれる・粘る・真綿を締めるように・魚が暴れない・耐えていれば魚が勝手に浮いてくる」というのがあるだろ?あの感覚はまさにこの現象のことだろう。魚がダッシュをかけても、発生するトルクはあまり変わらない。魚が暴れたとしても、それによるトルク増加が緩和されるんだ。ついでに曲がりこむことでトルク増加がなだらかに発生するので、対応しやすいというのも体感上の安楽さにつながる。

更に、だ。今のは魚が同じ方向に引く力が増した時を想定しているが、魚は逆に力を緩めたり、方向転換したりする。それを想定したのが今日最後の図だ。

魚の引く方向が一瞬で反転したとしよう。魚の動きの変化は得てして人の反応速度よりずっと速い。方向転換や首振り、休憩などでこの状況は容易に起こる。するとAでは、人側の入力が間に合わずラインが緩む。これは魚にとって休憩タイムであり、フックを外すチャンスだ。仮にバラさなかったとて、トルク変化が激しすぎて人側は慌てることになる。実際の釣りでは魚は細かく激しく動き回るからな。引きの最大値以上に、魚に主導権を握られた感覚が残るだろう。

対してCでは!ついにここで竿の復元力が活躍するんだよ!竿はここまでのファイトで曲げ込まれているから、魚からのトルクがなくなった瞬間に復元を始める。魚が反転して、人がそれに追いつかなくても引き続き魚を引っ張り続けるんだ。もちろんラインも緩まないから、バラしリスクも回避できる副産物(こっちがメイン?)つきだ。

ここまで「仕事するのは竿じゃなく人!」と竿のことを馬鹿にするような言い方をしてきたが、ここで復元力が日の目を見る。伏線回収みたいでちょっと感動しないか?俺は進撃の巨人とかハンター・ハンターとか伏線貼りまくりのマンガは大好きだ。そして、この「魚側のトルク減少」時における復元力は、今度こそ竿のトルクといっても良いかもしれないな。この現象を「魚がくわえたトルクによって曲がった竿が復元することで、魚が自身のくわえた力で持ち上げられる」という解釈をすれば、人の力によらず竿のトルクで魚が勝手に浮くという見方もできる。まぁ結局アングラーも同じだけのトルクで耐えているわけだが。

補足。よく言われる「竿は曲がることで仕事をする。」これは正しいんだが、じゃああまり曲がらない竿は仕事をしないのか?それは違うぞ。前に言ったように、完全に曲がらない(剛体)の竿というのは存在しない。どんなに高弾性でも、どんなに硬い竿でも必ず少しは曲がる。その時点で復元力は同じく蓄えられるんだ。むしろ復元するときは曲がる竿より素早く真っすぐに戻る。問題なのは、復元が一瞬で完了してしまって、すぐ上の図のBのようになってしまうだけだ。曲がらない竿は復元力がないんじゃなくて、復元(による仕事)が速すぎるんだわ。曲がる竿でも、高弾性で軽い竿だと、この復元が速すぎてしまう現象は起こりやすいかな。

この復元に関する「時間と速度」の話を絡めていくと、いわゆる竿のクッション性とか「竿ドラグ」と言われるような話になってくる。体感的な竿の復元力の強さなんかも説明できそうだ。今日はこのあたりの話は軽く済ませたいから深追いしないぜ。

ついでに、魚が暴れないと感じるのは支点距離の変化によってトルク増加を抑えてくれるからと言ったが、実際に暴れにくくなっている可能性もありそうだ。これはここの管理人の釣り経験が浅すぎるから断言はできないが、さっき言ったとおり、曲がる竿は魚の動きや力が変化しても常に魚を引っ張り続ける。そうすると魚は筋肉疲労を回復するタイミングを失い、ずっと休めないわけだ。人間も休憩を一瞬でも入れながらであれば筋肉の回復ができてフルパワーを持続しやすい。ところが休まず連続してフルパワーの運動を続けると、すぐ回復が追いつかなくなり力尽きる。運動会の保護者綱引きを想像してくれ。だいたい親父たちが気合入れて「うっし!うっし!」とリズミカルに引くだろ?ずっと引き続けるより、あの方が腕のフルパワーを出せるんだ。魚がどれくらいで疲労回復遅延になるかは知見がないが、休む間もなくどんな方向に動いても引っ張られ続けるとなれば、最後はただ抗ってまっすぐ限界まで引っ張り続けるしかなくなる。体感だけでなく、実際に暴れにくい可能性もあるというわけだ。なんとなくの経験としてはあるものの、これは魚種やパワーバランスにもよると思うので明言は避けておこう。

いずれにしても、テンションが緩んだ瞬間に間髪入れず竿が復元していき、魚が持ち上がる。再びテンションをかけてきても人側のトルクは増えず魚だけが疲れる。この状況で感じるフィーリングはまさに「トルクフル」というやつだろう。

ま、綱引きの選手権大会などでは足腰を使って引くから、うっしうっしとはやらないけどな

じゃあ曲がる竿は正義?

トルク感の正体がわかっただろうか。もし間違いや補足があったらいつでも言ってくれ。

そしてここまでの話をしておいて今更だが、曲がる竿が常に正義というわけではない。

まずここまで説明した話は、竿が曲がりすぎてしまうと破綻する。もうこれ以上曲がったら折れる!とアングラーが感じるほどに曲がってしまい、それ以上曲がる余地がない状態となれば、魚の引きの増加に対応できない。いわゆる「のされる」状態だ。この状態ではトルクなんぞ感じる余裕はなくて、ただただヤバいとしか思わない。(実際は本当に折れない限り意外と魚は寄る。)だからただ曲がるのではなく、「更に曲げこむ余地を残した状態」でファイトできなきゃいけないんだ。この余地がある状態というのを人間はある程度感知できる。竿は曲がってるんだが、まだ曲げられそう。筋力的にも余裕があって魚も暴れていない(気がする)。この状態をもって竿のトルクが強いと感じている可能性は高い。ま、人それぞれだろうがな。

そしてもう1つ落とし穴がある。支点に近づくことで魚のトルクを抑えられる。これはたしかだが、同時に竿を立てる動作によって魚が持ち上がる幅は小さくなるんだ。(この移動距離や、移動速度を考慮した物理量を「パワー」と呼ぶのがよさそうだな。が、またややこしくなるし釣り業界においてパワーとトルクを厳密に使い分ける必要もない気はするぜ。)

短い竿でリフトしても持ち上がらないよね?という単純な理解でも十分だし、テコの原理に当てはめても一緒だ。それにくわえ、魚のトルクと人のトルクがつり合うまでは、竿を立てても魚は寄らずに竿が曲がるだけ。つり合った状態からさらに立てたり引いたりしてようやくちょっとずつ魚が浮く。浮かせてからも曲がりは大きいままで、持ち上がり幅は小さくなる。これはカバーから引き剥がすような一瞬の駆け引きにおいて不利だ。もし筋肉は全てを解決する!で大きなトルクをかけられるなら、長くて硬い竿で引き剥がすというのは大いにアリだし、それが必要な釣りもあるだろう。長いのは流石に辛いとなれば、トルク変化への対応力は犠牲にして短く硬い竿を選んだっていい。曲がらなくてもコントロールできるなら、曲がらないメリットも多々存在する。釣りのシチュエーションや人の筋力・技術によって、正解は違うというわけだ。

ここの管理人は中坊のころ唯一デストロイヤーで売れ残ってたF5-510Xをお年玉で買ってそれでダウンショットもクランクベイトも投げてたさ…。

まとめ。どんな竿がトルク感を体験できるか

さて、トルクの正体について伝えたかったことは以上だ。改めてざっくりまとめると、

①トルクは竿ではなく人が発揮するもの。

②人がくわえるトルクが小さくて済むことが、俗に言う竿のトルクがあるということ。

③トルクとは「軸からの距離」と「力の大きさ」の掛け算で決まる物理量。

④曲がる竿は軸からの距離を小さくできる。

⑤曲がったところから更に曲げ込める余裕のある竿は、魚のトルク変化に対して人側のトルク変化を抑え、ついでにバラしも抑えて負荷をかけ続けてくれる。

最後に、今日話した内容の範囲で、竿のつくりの部分でもう少し掘り下げて終わるとしようか。

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基本的にはよく曲がる竿でいいわけだが、さっき言ったとおり曲がりしろを残せないといけない。いわゆるバットが残る状態だ。残るといっても棒のように曲がらない竿ではなく、ファイト時はしっかりベリーまで曲がりこみ、そこからまだバットも曲げていける余裕がある。そんな竿だ。特にこのベリー〜バットにかけての曲がりの特性と繋がりのスムーズさは、魚の取り込みやすさを決める上で重要なファクターといえる。ついでにそのような特性を煮詰めていくと、ファイトと同じく高負荷領域であるキャストにおいても性能向上が図れるな。

これとは別に、竿を曲げた時に復元力があふれてくるような感覚、あれもトルク感の一部かもしれない。この感覚は今日の内容では説明しきれない。さっき話した「時間や速度」に、距離や質量なんかも絡んでくる。もっと言えばファイトの持続時間なども考慮したほうがいいんだが、そこまでいくと話がややこしいから、いずれにしても止めておこう。

ひとまず今日の内容に合致した竿を作りやすいのは、例えばグラスだったり、低弾性カーボンだったり、厚巻きだったり、ローテーパーだったり、カーボンソリッドだったりする。小難しい理論でなく実践的な感覚でいえば、一般にトルクフルだと言われるそれらの竿で、バットの曲がり具合を確認して選べば概ね良いだろう。なんだ?結論はよく言われてる当たり前の話だな、って?そうだよ(笑)何が物理的に正しいかを議論する必要なんてないのかもしれないな。

このへんの話は、まさにバス釣りに人生を捧げている御方、KenD氏が語られている。実戦ではそのような理解で何ら問題ないと思うので、ここまでの話がしっくりこなかったら下記を観てくれ。しっくりこなくても俺の推しなので観てくれ(笑)

ただ、ここの管理人がロッドビルダーなので少し補足しておくと、別に高弾性カーボンだとトルクフルな竿が作れないなんてことはない。高弾性でよく曲がる竿を作ろうと思うと、強度が出しにくい傾向はある。更に言えば、ここまで竿の質量を単純化のために無視してきたが、重いものを引っ張るより軽いものを引っ張る方が楽だ。魚側にとってみれば、軽い竿は引っ張りやすいともいえる。しかし!いずれもパワー帯や製法次第ではいくらでも対応できる。高弾性でもよく曲がり、適切な質量を持った竿は作れることを知っておいてほしい。逆にグラスロッドでほとんど曲がらない超高反発の棒竿を作ることも可能で、それが市場にないのは、単に重たすぎor太すぎて使いにくいだけなんだ。結局は重すぎると自重である程度曲がっちゃうしな。いかんいかん、また脱線しちゃうし、別の機会に話すとしよう。

結局のところ、何度も示した通り「仕事をするのは竿じゃなく人」だ。これはロッドビルダー視点だと作り手の限界を示す事実でもあり、逆に嬉しいことでもある。竿によって向き不向きはあるにしろ、どうせ万能ではない。ここまでの図はあくまで単純化したモデルであって、支点に近づけたければ竿を寝かせたり思い切り立てたりすればいい。曲がらない竿なら反応速度と操作技術を鍛えればいい。魚に負けるなら筋力増強と力点側の位置を考えればいい。どこまでいっても、竿はこちらの入力に応えるだけ。釣りの主演俳優は道具ではなく常にアングラーなんだよ。

それらアングラー側の工夫について、パワーファイトやドラグ設定の観点から、ブルーブルー代表の村岡氏が語っている。理屈も今日話したことと通じる内容だ。俺みたいなどこの馬の骨かもわからんやつの話など信用ならん!というならマサっち釣りチャンネルを観てくれ(笑)

今日の講義はここまで!宿題は、この話を自分の経験・理解と照らして答え合わせすること!そして違うと思ったら俺に伝えること!あばよ!

後日談

キャラを戻します(笑)こちらを投稿してからSNSでいくらかの反応を頂きました。肯定的なものが多かったですが、否定的なものも。

そもそも竿のトルクじゃないんだからそれ以上踏み込むべきでない。感覚的な言葉でいいじゃないか。要は復元力=トルクでいいんじゃないの?業界の闇に切り込むのはいかがなものか。

はい、そうだと思います。何ら否定をするつもりはありません。ただ、素人ながら竿を組む者として、正しく理解し、正しく形にしたい。何よりもっと竿のことを知りたいと願って、自分の整理のため、議論のたたき台を作るためとしてブログを書いております。まだあまり解釈や物理に関しての質問や批判がないのが寂しくもあります。いつでもお待ちしていますよ!(笑)

そんな中、業界で活躍されている(いた)本当のプロの方々からの反応はとても勉強になり、大変嬉しいものでした。

下記はそんな中の1つです。ロッドテスターではなくロッド製造に携わった方の視点で、大変学びがあり、引用させて頂きます。