予備校講師シリーズ補講:竿のファイト時における性能を物理で考える

2025年2月19日ロッドビルド論

先日は「竿のトルク」について大変長い記事をアップしてしまいました。記事にも書いていましたが、目的は言葉狩りではなく、竿のもつ性質や能力を正しく理解し、議論し、それを製作に活かしていきたいというものでした。

記事投稿後、様々な反響をいただけて大変嬉しく思います。また各々がトルクに関する考えをSNSやブログに書かれているのを見て、大変勉強になっております。

前回は「トルクとは何か」から入ったため、最後まで本来のトルクという物理量をもとに議論しました。しかし、記事に書いた通り「トルクの発生源は人(と魚)」であり、またトルクだけで竿のパワー的な感覚を説明することは不可能です。記事に対するリアクションも概ね好意的であったものの、その説明しきれていない部分を指してその方なりの表現をされている場合や、相反する解釈も多く見られました。そこで今回は「トルク」という言葉の呪縛を取り払い、ファイト時の竿に起こる現象やフィーリングに対し、純粋にその現象に合致する物理量(次元)を用いて考察してみたいと思います。前回に続き予備校講師ノリで、批判反対大歓迎です。物理詳しい人にとっては回りくどくて申し訳ないです。

導入:前回の反省と、ファイトにおける竿の現象を物理量で表すこと

前回は長い講義を聞いてくれてありがとうな。あ、今日は補講だから、前回の内容を知っている前提で進めていく。なるべく前回の内容もかいつまんで話すが、もしよくわからなくなったら申し訳ないが上のリンクから読んできてくれ。この講義のノリも長ったらしさもわかると思う(苦笑)

前回の内容は、「トルク」って言葉が釣り竿に使われることへの違和感、そしてその言葉が表すことが人によってバラバラなことをきっかけに、竿におけるトルクとは何かを考えようとしたもんだ。ただなぁ、そこでも話したように竿のトルクなんてのは基本的には存在しないわけだ。講義の後に「竿のトルクって復元力でしょ?」と言ってくる人が非常に多かった。曲がった竿が戻りながら魚を持ち上げる動作は、たしかに魚を回転させる動作なのでトルクといえばトルクだ。しかし繰り返し言ったように、その復元力は人(と魚)が与えた力が元であって、入力された以上の復元力は発生しないんだよ。復元力は復元力。もし入力以上の力を発揮する釣り竿があるんなら、それを並べて発電所でもつくれば夢のエネルギー機関の完成だ(笑)

このことも何度か話したが、目的は言葉狩りじゃあない。正しく竿を理解し、狙いにあった竿を使ったり作ったりしたいじゃないか。目的はそっちだ。であれば、そもそも竿自体にトルクという概念を当てはめて語ること自体に無理があったと思う。その点は俺が反省しているところだ。ファイトにおける竿の力強さを表すときには、他にも「リフティングパワー」とか、「粘り」とか、やはりトルクのように定義がはっきりせず人によって違う感覚を表す言葉がたくさんある。トルク的なもの以外にも理解が必要な現象はたくさんあるし、それらの言葉に拘るよりも本来の物理量の言葉と定義をそのまま使って、なるべく釣り人特有の用語を使わずに表現していく方が、誤解なく正しく説明できると思ったわけだ。ということでこの補講は俺の反省も兼ねた内容だ。そのかわり、前回は説明できなかった範囲で「これがトルク感じゃないの?」というものにも触れられるし、他の現象にも目を向けられるから楽しんでいってくれ。そして間違いがないか、付け足しがないか、一緒に考えてくれ。

用語の置き換え トルク→モーメント

じゃあ始めよう。竿にくわわる力(耳タコだろうが、竿のトルクじゃなくて竿にくわわる力だぞ)の表現は、材料工学的にはトルクより曲げモーメント、もしくはねじりモーメントの方が正確だ。これは曲げ方や支点の位置、数などで細かく分類される。が、竿の場合はそこまで使い分けなくても考え方やおおまかな計算は前回のトルクの話で行ったものと同じだ。(もう少し深く言うと、片持ち梁・集中荷重のモデルといえるぞ。)だがこのままトルクという言葉を使えば、人によって思い浮かぶものが変わってしまう。釣り人が感覚的に使えない言葉で、なるべくシンプルにと考えれば「モーメント」を使うのが良さそうだ。基本的なモデルは前回そのままで、グリップエンドを支点、穂先を作用点とした竿の回転運動、そして回転運動を起こす力をモーメントと表現するぞ。力点はいったん無視してくれ。

同じ絵だ

①ポンピング動作における考え方

まず力の世界を論じる時に、「次元」という考え方がある。ゲームの2次元3次元の話じゃないぜ。力に関係する概念というと、例えば、長さ、面積、体積、質量、時間なんかだ。ひらたく言えばこういう概念のことを次元という。1kmと100kg、どちらが大きい?なんて言われても意味わからないよな。同じ次元でなければ数字は比べられない。そして物理量の種類によって、どの次元について表しているかは明確に決まっている。例えば「速度」。これは「距離を時間で割った次元」と決まっている。物理が苦手、もしくは学んだことない人は、「次元」は「単位」と言い換えてもいいかもな。単位がそこで表したい現象に合っていて、同じ単位どうしで比べられていればOKということだ。

ではポンピング動作における適切な次元を考えてみよう。ポンピング動作は、竿を持ち上げる(回す)ことで魚を持ち上げ、竿を下す間に巻き上げるという動作のくり返しだ。巻き上げ中の動きは無視すると、持ち上げる動作がいかに楽か、いかに大きな力を発揮できるか、いかに素早くできるか、ということを評価したいよな。

前回の講義で扱ったトルク改めモーメントは、物体を回そうとする力を表していて

(モーメント)=(力)×(支点からの距離)

という「力×支点からの距離」の次元だったよな。実際のポンピング動作で人がどれくらいのエネルギーを必要とするかを考えるなら、そこに「何度回すか(角度)」と「何秒で回すか(時間)」という次元が必要だ。何度というのは、支点からの距離とかけることで「回転によって動かした距離」すなわち「魚をリフトした高さ」とほぼ同じことになるな。前回までのモーメントに加えて、動かす距離や時間(速さ)といった次元も考えることになる。より軽い力で、短時間で、高く持ち上げられればいいわけだ。

この話に合致する物理量として、回転仕事と回転動力を考えてみよう。回転仕事は、物体を回転させたときに使うエネルギー量だ。

(回転仕事)=(力)×(支点からの距離)×(回転させた角度)

(力)×(支点からの距離)の部分はモーメントと同じだな。モーメントに回転させた角度を掛けたものだ。回転仕事を、その回転動作にかかった時間で割ると、時間あたりに発揮したパワーがわかる。これを回転動力という。素早く、大きなモーメントで動かせば、回転動力が大きいということ。

(回転動力)=(力)×(支点からの距離)×(回転させた角度)÷(時間)

人がポンピング時に発生させられる力およびパワーは、その人の筋力・体力・技術によってほぼ決まっている。回転動力の最大値は人によって自動的に決まるということだ。そして「回転させた角度」は、ポンピング動作ではどんな竿であれほぼ一定。竿が変われば後ろまでのけ反れるとかないだろ?(笑)すると、残った「力」と「支点からの距離」と「時間」がどう変わるかを考えればいいわけだ。

回転動力が人に依存して一定だとすると、その範囲でなるべく大きな力を発生させたかったら、「支点からの距離」か「角度」を小さくすればいい。このうち「支点からの距離」を小さくする方法は、前回の内容通りショートロッドか曲がるロッドを使う、だったな。特に曲がる竿は魚の引きに応じて支点からの距離が自動的に調節されるから、より楽だという話をした。しかし!「支点からの距離」や「角度」を小さくしてしまうとある問題が起こる。「支点からの距離」と「角度」をかけると求められるのは「回転によって動いた距離」、すなわち「魚をリフトした高さ」だったな。半径×2×π×角度÷360°だぞ、覚えてるか?短い竿や曲がる竿を使えば楽な力でポンピングできる。しかし一回のポンピングで持ち上がる高さは低くなってしまうんだ。逆に、もし一回のポンピングで一気に持ち上げたければ、長くて曲がらない竿を使えばいいが、発生させられる力は小さくなることになる。

更に時間のことも考えようか。回転動力が一定ならば、時間を大きくすれば、力など他の次元も大きくできる。すなわちゆっくりポンピングすればいい。素早く持ち上げたいのなら、力か、距離のどちらかが小さくなる。

これらを踏まえると、ある事実が浮かび上がる。竿によって力の大きさ、ポンピング距離、ポンピング速度を調整することはできる。しかしより力強く、高く、素早く持ち上げたければ回転動力(人のパワー)自体を上げるしかないという事実だ。やはり基本的には、竿自体が力を発揮するということはないんだ。その人の筋力、そのときの魚、そのときの状況に応じて使いやすい竿があるというだけだ。

例えばカバー周りで引きの強い魚を掛けたとしよう。根に一気に潜る魚種だったら、なるべく短時間で一気にリフトしたい。そうなるとアングラーが扱えるギリギリでなるべく長く硬い竿を用意し、フルパワーで可能な限り素早く剥がす必要がある。

例えばオフショアで、障害物のないところでマグロを掛けたとしよう。時間はたっぷりかけていい。というかすぐランディングするのは不可能だ。ラインもどんどん引き出されるので、少々リフトしたところですぐ帳消し。こんな状況では、短く曲がる竿でなるべく力を抑え、負荷をかけ続けながら持久戦に持ち込むことになる。

例えば漁港で20cm未満のアジを狙っているとしよう。ほとんどの人は魚の引きに苦労することはないだろう。それなら魚の引きに合わせた竿を選ぶ必要はなく(楽しさという意味ではその限りでないぞ)、ルアー、キャスト、操作、ラインなどに最適化された竿でいい。

結局のところ、理屈を理解した上で、筋力・魚種・ポイント・ファイトスタイル等により適した竿を選ぶべき。これが結論だ。

体格や筋力で劣る人も、よく曲がる短い竿を使えば、時間さえかければ魚は浮かせられる。小学生に「この竿はパワーあるぜ!」と雷魚ロッドを渡す人は少ないはずだ。俺は鱒レンジャーを改造して息子に鯉釣らせてるぜ。逆にガチムチにその鱒レンジャーを渡しても、自分の本来の筋力を発揮できずにゆっくり浮いてくるのを待つことになり、かったるく感じるだろう。

よく「リフティングパワー」という言葉も使われるが、これはトルク以上に扱いが難しい言葉だな。長くて硬い竿は人が大きなパワーをかけられるから、その意味でリフティングパワーが大きいと言われれば理解はできるが、扱えないほど長くて硬い竿では人が魚に負けてしまう。短くて曲がる竿は、筋力が小さい人でも魚を浮かせられるという意味でリフティングパワーがあると言われても理解できるが、浮かせるのに時間はかかる。この言葉は本当に使うのが難しい。いずれにしても、パワーは人が発揮するものだからそこを踏まえた上で竿の特性を整理するといいだろう。1コマ目終わり!(ちなみに「力」、「パワー」、「エネルギー」は物理においては別の言葉だ。そんなことで揚げ足を取る必要はないが、一応使い分けて話しているから気になる人はググってみてくれ。)

「弾性」と「復元速度」のホント

さて2コマ目だ。ここからの話に入る前に、認識を合わせないといけないことがある。「竿の弾性」についてだ。ここにはかなりの誤解があると思っている。またそれを理解してもらった上で「復元速度」に繋げなければならない。高校物理というより材料工学の用語が出てきてちょっと難しく感じる人もいるかもしれないが、頑張って聞いてくれ。

「復元」というのは、変形した物体が元の形に戻ることだ。そのときの「変形しにくさ」を表す数字が「弾性率」だ。釣り竿の原料である炭素繊維には、それぞれの繊維製品ごとに平均的な弾性率が書かれている。これがよく釣り人がいう「〇トンカーボン」というやつだ。最も有名な炭素繊維メーカーの1つである東レ社のデータシートを貼ったから見てくれ。kgf/mm2という単位のkgをtに変える、すなわち数字を1/1000にすれば、よく聞きなれた「〇トン」に変換できるぞ。

出典:東レホームページ トレカ🄬炭素繊維データシート 2025.2現在

数字が大きければ大きいほど変形しにくいという意味だ。「変形しにくさ」という意味で「剛性」とも言われる。弾性と聞くと、弾みやすさや反発の速度なんかを表すと思うかもしれないが、それらはまた次元が違うものだぞ。ここでよく見てほしいのが、弾性率の頭についている「引張」という言葉だ。引張弾性率は、縦弾性係数や、ヤング率などとも呼ばれる。詳しくはヤング率とか「応力ひずみ曲線」などで検索すると出てくるが、重要なのは、この値は変形の中でも「引っ張ったときの伸びにくさ(変形しにくさ)」を表しているということだ。そして、引張弾性率の次元は「圧力」になっている。圧力は「面積あたりにくわわる力の大きさ」で、繊維の断面積が倍になれば、伸ばすのに必要な力も倍になる。釣り糸でも、細いフロロを引っ張ったらすぐに伸びるが、同じ銘柄の太いフロロを同じ力で引っ張ってもあまり伸びない。そういうことを表している。

釣り竿は基本的には曲げて使うものだ。曲げたときに曲げの外側は繊維が伸びる。内側は繊維が縮められる。だから引張弾性率は竿の曲げに関する弾性に無関係ではないが、一致はしない。繊維の曲げに対する変形の度合(横弾性係数などと呼ばれる)を正確に測るのは難しいから、繊維の変形しにくさを示すのに引張弾性率が使われることが多いんだ。さらに釣り竿は、炭素繊維をシート状にまとめたもの(プリプレグ)を芯金(マンドレル)に巻いて接着して作られる。繊維の引張弾性率(釣り人がいうトン数)と、竿自体の剛性(曲がりにくさ)は別物なんだ。

出典:機械設計エンジニアの基礎知識ホームページ 曲げの外側の部分は引っ張られ、内側の部分は圧縮される。だから引張弾性率はもちろん影響はあるがイコールではない。

えーでも高弾性な竿のほうが張りを感じるし硬くて曲がりにくいでしょ?そう思ったかもしれないな。そこをこれから話そう。

竿の曲がりにくさを決める次元を考えていこう。引張弾性率は、材質の曲げにくさ(横弾性係数)と基本的にはほぼ比例する。なので曲げの計算においても次元の1つとしては使える。そして、当たり前だが引張弾性率同様に太くなればより大きな力が必要になる。下の図は片持ち梁・集中荷重という釣り竿の曲げに近いモデルだ。ちょっと難しい式になってしまうが、たわみ(曲がりの大きさ)は、E:縦弾性係数(=引張弾性率)と、I:断面二次モーメントが大きいほど小さくなるという式だ。

出典:機械設計エンジニアの基礎知識ホームページ 以下しばらく同サイトから引用させて頂きます。

引張弾性率はもうわかっただろうが、断面二次モーメントとは?ざっくり言うと形における曲がりにくさだ。特に釣り竿の場合、中空のパイプ状の形をしている。中空パイプにおける断面二次モーメントは以下の式で表される。

これも複雑な式で済まないが、要するにD:パイプの外径が大きいほど、そして肉厚であるほど断面二次モーメントが大きくなるということだ。特に径はなんと4乗だから、大きく影響することがわかるな。

つまり、だ。竿を太く厚くすれば竿は硬くなる。弾性が低くてもたっぷり巻けば硬い竿になる。低弾性であることと、柔らかい・張りがないというのは必ずしもイコールではないんだ。高弾性でも細く薄くつくればぐにゃりと曲がる竿ができるし、低弾性でもバキバキに硬い竿はいくらでも作れる。その証拠に、鮎竿は60トンとか使うのにぺにゃぺにゃだ。逆に低弾性の雷魚ロッドを楽に曲げられる人はそうそういない。

そんなはずはない!低弾性の竿はよく曲がるし、だるいじゃん!そう思うだろ?次の話に行くぞ。

竿には自重がある。何を当たり前のことを!というかもしれないが、釣り竿って魚がかかってなくてもそれなりに重いよな?魚がかかってなくてもひゅんひゅん振れば多少曲がるよな?これってどういうことだ?そう、竿自身の質量(によって発生するモーメント)でも竿は曲がるんだ。低弾性の竿を硬くするには、材料をたくさん巻く必要がある。するとどうなるか?重くなるんだ。穂先は、釣りによって求められる硬さがある程度決まってくる。低弾性でその硬さをつくると、高弾性で同じ硬さをつくった時より重くなる。すると同じ硬さになるように作っても、低弾性の竿は自身の重み(モーメント)により無負荷状態でも高弾性の竿より大きく曲がってしまう。で、それを支えるためにより厚く太く巻く。バット側はさらにその穂先側の重みを支えるためにさらに厚く太く巻く。いたちごっこだな。結果、弾性率が違っても同じくらい曲がる竿をつくることは可能であるが、低弾性の竿はかなり重くなる。計算は面倒くさすぎるから省略するが、弾性率による竿の性質の違いの一つは、硬さではなく重さということだ。

ようやくここで「反発速度」の話になる。反発速度を考えるのに、竿の形のままではちょっと考えにくい。同じ変形⇔復元をくりかえす物体としてバネで考えてみよう。釣り竿も一度曲げると反発し、そのまま放っておいたらしばらくびよんびよんと反発・復元を繰り返すよな。基本的には同じように考えていい。カーボンパイプは折れる直前までほとんど弾性率が変わらないというのも、バネに近い点だ。

出典:mono塾ホームページ

上の図は、重りのついたバネが振動するときの運動のようすを表した式だ。外から新たに力はくわえず、勝手にびよんびよんしている状態と思ってくれ。外部からの影響なく振動している間、この式の関係は保たれるんだ。バネが伸び切った瞬間、縮み切った瞬間は一瞬だけ動きが止まる。このときが復元力が最大になった状態。そこから復元していき、元の形に戻った瞬間、今度は動く速度が最大になる。それをくり返していく様子が式になっている。難しく言うと力学的エネルギー保存則といって、運動エネルギーと位置エネルギーの変換が繰り返されている状態だ。

なんだか難しい用語があるが、あまり関係ないところから言うとc:粘性だ。これはバネ素材そのものの粘り気みたいなもので、これが大きいと他の値が小さくなってしまう。車のサスペンションでいうダンパーにあたる性質だ。だがカーボンロッドにダンパーはないし、材質ごとに多少差はあっても今は無視してかまわないだろう。

次にx:変位(どれくらい変形したか)と、k:剛性をかけた部分だ。さっき話した通り、弾性率に関係なく竿の剛性はつくれると理解したはずだ。だからkは弾性率ではなく、完成した竿全体の弾性(=剛性)で決まる。このkxこそ、いわゆる復元力、反発力だな。硬いものを大きく曲げると大きな復元力になることを表している。

そしてm:質量と、a:加速度をかけた部分だ。低弾性素材で硬くつくった竿は、質量が大きい。竿全体の剛性と曲げ具合が決まっていれば、cvとkxの部分は一定に決まる。すると質量が大きい竿は、そこにかけられているa:加速度を小さくしないと式が成り立たない。加速度とは、速度の上がり具合を示す。つまり、重い竿は反発速度が上がりにくいんだ。低弾性だから曲がる・重い・ダルい、ではなくて、結果的に重くなり、更にその結果反発速度が遅くなるというのが正しいと思う。長々話したわりに結論は当たり前だな、って?そうだ。でも弾性率がそのまま重さやダルさに直結しているわけではないことが重要だ。ここまでは太さや厚みに変化がない棒を想定して考えてきたが、実際には竿にはテーパーがあり、肉厚も調整できる。断面二次モーメントのところで話したように、径は肉厚より圧倒的に影響が大きい。薄く太いつくりにすれば、重量はたいしたことない。そんなつくりにしても低弾性素材は強度が高めなので折れにくい。同じくらいの曲がりで、40トンカーボンの肉厚ロッドより軽量なグラスロッドなんてのもつくれるんだ。そこにテーパーや巻き方なんかも考えていけば、特性はかなり弄れる。決して弾性率と曲がり具合はイコールではない。そして、おそらく反発力のことを「反発速度」だと考えている人もいると思う。そこの誤解も解いておきたかった。

ちなみに下の記事で断面二次モーメントと竿の重さについて掘り下げているから、よかったら後で見てくれ。はい、2コマ目終了!まだまだ続いてしまうぞ!

竿を固定してリーリングで持ち上げるときの考え方

今度はポンピングではなく、竿は固定してリールで巻き上げる、もしくは巻かずに耐えている状態の話だ。ここはほぼ前回のブログの内容で、モーメントの大小で基本的には説明できると思う。短い竿および曲がる竿は、支点からの距離が近づくことで、より小さい力で耐えられる。特に曲がりつつもまだバットに曲がる余裕のある竿では、魚が力を抜いたり反転したりした時に竿の復元によるリフトがあること、魚の引きが大きくなったときには作用点が手元に寄ることで、より楽に耐えられるということだ。

魚は体を振って泳ぐので、引きの力は一定でなく周期的に変動する。だから常時この復元によるリフト効果や、人側のモーメント変動が抑制される効果も効いている。魚も暴れにくく休む間がなく疲弊するので、耐えていると浮いてくる感覚になる。

ただこれだけだと、ぺにゃぺにゃだけどバットがギリギリ残って折れないという竿が最強になる。実際、鱒レンジャーは小学生が鯉を難なく寄せるほどの実力をもっている。でも、いわゆる「トルク感のある竿」が持つ感覚はこれだけだと説明しきれないようだ。しっかり耐えて、魚がぐいぐいと浮いてくる、まるでパワーがもりもりと湧いてくるような…。実際、前回の話のあとでそこを指摘している人もいた。この感覚を説明するのに、「復元速度」が答えになると俺は考えているんだ。ここまでの話には、時間という次元が入っていない。それをくわえることで違う見方ができる。

クッション性能を、力積と時間の関係で説明する

竿がクッションのようにはたらいて魚をいなす。この感覚は「トルク感」とか「粘り感」で表現されるものの1つだろう。基本的にはこれもさっき言ったモーメントの観点で説明はできる。そこにくわえて、力積と運動量いう考えを使うとより説明が補強できる。

出典:炉けーのブログ

これも物理をやっていないと何やら難しい式に見えるだろうが、式の左側で言っているのが「運動量の変化」で、「どれくらいの質量のものがどれくらい加速・減速したか」と考えればよい。ファイトでいえば、魚の引きが急に強くなったときを考えてくれればOKだ。このとき、式の右側が「力積」といって、(F:力の大きさ)×(Δt:変化にかかった時間)だ。さっき話したように、重い竿というのは振動の加速度が小さい。曲がるのも戻るのも遅いんだ。魚がダッシュをかけたとき、力積はその魚の質量と速さの変化量で自動的に決まる。そこで反発が遅い竿では、魚がダッシュをしてもすぐ最高速には達せず、時間がかかる。すると、力は逆に小さくなるんだ。特に竿の場合は、バット部分まで曲がり切る・復元するにはそれなりの時間がかかるから、この要素は無視できない。わかりにくい人は、卵を硬い床とスポンジの上にそれぞれ落とすのを想像してくれ。前者は割れるよな?これは速度が一瞬でゼロに変化するから大きな力がはたらくわけだ。スポンジの上に落とした場合は、速度がゼロになるまでにスポンジがへこむ間の時間がかかるので、力がずっと小さくなる。竿も同じことだ。

人にとっては、一瞬でガツンと引かれるより、ゆっくり引かれる方が楽に感じるだろう。これは引きの変化に対応する時間が稼げるということがまず大きい。人間の動きより魚の動きの方が早いし、人間は基本的に後手に回るので、あまり速く動かれると反応が間に合わない。この理由は大きいはずだ。それにくわえて力積の観点から、魚がダッシュしたときにはたらく力自体も小さく済んでいるんだ。この2つとモーメントに関する要素をもって竿のクッション性と呼べると思う。そしてこのクッション性は、よく曲がる重い竿で発揮しやすいというわけだ。竿を曲げたときにググッと力があふれるように感じるのは、このあたりの感覚だと俺は思っている。天井曲げで伝わるトルク感的なものは、竿の質量と曲がりの遅さ(+硬さ)を感じているんじゃないかな。

その他:そもそも重くてダルい竿は硬い

いよいよ最後の話だ。え?重くてダルい竿は柔らかいでしょ!まだそう言うかい?弾性のところで話した通り、低弾性素材は高弾性素材より材料を多く巻く必要がある。バット側はその穂先側の重み(モーメント)を支えるために、さらに巻いて硬くしないといけない。自重を支えるための硬さが必要になるということを話した。結果的に、無負荷状態で同じような曲がり具合の竿を低弾性素材でつくったら、自重を支えるためにより硬くなっているはずなんだ。そもそも竿として剛性が高いものになっているわけだ。だからパワーがあると感じる。これも要素としてはあると思う。

あとはファイト時の力にかかわる要素としては、単に魚側にとって、より重たいものを引っ張るのが大変という解釈もできる。が、その場合の竿の質量(正確に言うと慣性)は無視してもよいかなと思う。人が竿を支え、力をくわえている以上、他の要素より影響は小さいだろう。

ま、色々言ってきたが、結局は復元力の源は人が与えた力であるということは揺るがない。ここまで書いてきたのは特性の話であって、それが優位にはたらくかどうかは筋力・魚種・ポイント・ファイトスタイル等による。そして竿には調子・テーパーがある。負荷に応じてどうはたらかせるか、各セクションをどう繋ぐかによって、一振りの竿に多様な特性を表現させることができる。穂先は入るけどバットは硬くして止める。穂先は張りがあって操作しやすいがベリーはやわらかくして竿全体ではしなやか(いわゆる「への字」テーパー)などなど。そうやって竿の各セクションを眺めつつ、繋がりを感じつつ、設計者の意図に想いを馳せながら竿を曲げると楽しいゾ~。

↓前回に続きKenD氏の記事。まさに穂先は入りバットで止め、重みのあるブランクス特性を活かす様子。

あとはここまで力点の要素をあまり語らなかったが、力点を支点から離すことで、同じブランクでもより大きなモーメントを与えられる。例えばグリップを長くする、リールシートでなくバットを握る、などだ。どちらも強い魚と対峙するための竿に見られる構造だな。支点から作用点までの距離も、竿の立て方で変えられる。竿側で力点を支点から離しやすいつくりにもできるし、人側で工夫もできる。それら全てを複合して、竿のファイト時における性能は成り立っている。更に…これを言ったら身も蓋もないんだが、ルアーロッドにはふつうドラグ付きのリールを乗せるよな?だいたいの場合、これらの性能を活かしきる前にドラグが出るような設定の人が多いんじゃないか?本当に竿の美味しいところまで曲げて使ってる人は少ないと思うぞ。ドラグは竿や人の足りないところを補ってくれる素晴らしい機能だが、もっと竿の特性を信じて曲げてやっていいんじゃないかと俺は思う。

何度でもいうが、力を発揮するのは竿じゃなくて人。どこまでいっても釣りの主役はアングラーだ。

長々とお疲れ様。今日の補講終わり!

まとめ

キャラを戻します(笑)個人的にはファイトに関する物理は概ね網羅したと思っています。ただ間違いや不足もあるかもしれないので、ぜひ指摘してほしいです。なおオフショアなど、ファイト時間を考慮した場合には、次元をエネルギーで考える必要があります。ただそうなると人および魚の筋疲労とその回復時間とか、ドラグ値とか、要素が多すぎるので割愛します。概ねここまでの話で、瞬間的な力の大きさと変化量を議論できていれば十分でしょう。まとめると

①ポンピングの「高さ・速度」と「ポンピング力」は相反しており、竿によってそのバランスが変わる。両方を上げたければ人が頑張るしかない。

②竿の弾性率と竿自体の弾性(剛性)は一致しない。弾性は硬さであり、反発速度ではない。

③重竿は反発速度が遅くなり、魚の引きの変化による力と、その変動を抑えてくれる。

④アングラーと状況によって最適な竿は変わる。人の筋トレと工夫により調整もできる。

こんなところでしょうか。他にもキャスティングにおける物理もまとめたいですね。残念ながら私自身のキャストがへっぽこで、理屈だけで説得力がないのが残念ですが…。