アンダー14g 史上最軽量パックロッド完成への物語

2022年1月3日ロッド作品

パックロッドのイメージは、重い・脆い・鈍い、あくまで仕舞寸のための妥協の産物、1ピースに比べ性能は劣るというもの。パックロッドを研究する私としては、それが気に入らないのです。様々な竿を組むにつれ、一見デメリットにみえる継ぎ構造は、時にメリットへと昇華できることが見えてきました。ならばパックロッドビルダーとして、1ピースロッドが到達しえない世界を表現する本気のパックロッドを創ってやろう。そんな想いでスタートした企画は、2021年下半期の自分向けビルドの最大トピックスでした。

プロローグ ~あるブランクとの出会い~

2021年2月、関東から現在の住まいへ引越しにあたり今のうちにと訪れた聖地サバロ。実はお目当てのブランクがありました。某アメリカブランドのフライ用ブランクです。グラスやバンブーが未だに神格化されるフライの世界に合って40t+50tコンポジットアンサンドという極めて尖ったブランクの存在を知り、そのライトクラスが気になっていました。いくら超高弾性とはいえ、アメリカンメーカーのフライ用。面白いアクションを描くのではと期待していました。ほしいのは4番でしたが、サバロさんには5,6がありました。4は輸入前ということで、せめてテイストだけでも知りたいと触らせて頂いたところ、カリカリながら非常に安心感があり、大きく弧を描きます。ルアーロッドの感覚からすると極めてスロー、しかしカリカリという製作意欲を刺激しまくりな逸品でした。

そして4番の入手方法を調べるうち、結論は本国から輸入ということになります。すると丁度本国のセールが重なっており、送料を踏まえても相当にリーズナブル(てかこんなんでいいのかレベル)でした。これは冒険するしかない!と有志の方々を募って輸入を決行。(サバロさんすいません、当時は店頭にない番手でしたので・・・。)

そして自宅に届いたのが2021年6月。期待に胸を膨らませました。

NFCブランク
絶景ですなぁ

そこで開封した一番のお目当てブランク。当初は9ft4ピースの穂先側3本で万能ライトゲーム竿を組もうと考えていましたが、穂先側2本の重量を測って驚愕・・・。

NFCブランク
なん…だと…?

これは…当初の計画も捨てがたいが、思い切って超軽量ロッドを組むのがベターでは。一気に灯がつきました。まずはアジングロッドとして史上最軽量を狙い、そこからパックロッドとしての最軽量を目指す。2021下半期のテーマが決まった瞬間です。

最軽量ベイトアジングロッドチャレンジ編

まずは2ピースのベイトアジングロッドとして最軽量を狙ってみます。アジングなのはブランクのパワーと人外ビルダーの巣窟である点から。ベイトなのは自身の拘り、差別化、そしてわずかながら存在する優位性のため。ネットでたどり着ける最軽量チャレンジは、私が調べた限りワンピース20g切りが最軽量です。市販品では、あのモーリスグラファイトワークスでも30gアンダーはありません。(まぁそのうち出すでしょうが。)トリガーを設ける場合、ロッド単体重量で言えばわずかにベイトは不利な争いです。なので美学を失わずに(ここ重要)20gをゆうに切る竿となれば、最軽量を宣言しても差し支えないでしょう。それでも世に自分の成果を発信しない「本物」は隠れて存在するでしょうけどね。

美学は大事です。極端なことを言えば、リールシート無しでブランクにリールをテープ巻きし、3番トルザイトガイドを実用範囲未満に減らして載せれば、20gは余裕で切ります。しかしそれではつまらない。新しい提案、ロッドという釣り人の刀としての美、十分以上の実用性、最大限の機能性を持たなければ、竿を組む意味はない。そこでマイルールとして、①リールはテープ等に頼らないスクリュー固定、②パイプシートの形状を有する、③市販品以上の性能と汎用性(最終的にパックロッド化するため)を有する、を決めました。

構想はブランクとにらめっこしながら行い、いくつか試しながらとりあえずの完成系となったのが2021年8月。まずは16.4gという着地になりました。

最軽量アジングロッド
劣化安達棒感…。
最軽量アジングロッド
もちろんズルはしておりません

この時点でのスペックは、全長5ft3inの2ピース、適合ウェイト~5gといった感じです。延長バットピースも用意し、これを併せても20.0gの5ft7inとなります。

最軽量アジングロッド 延長ピース
延長ピース装着時。申し訳程度でもエンドグリップのあるなしはデカい
アジングロッド20g
20g切りです。

実現のポイントは複数ありますが、まずは自作リコイルガイドでしょう。0.4mmの形状記憶ワイヤーを手曲げ加工し、ガイドリング・フレーム一体式で成形したものをトップとバット以外に装着しました。これにより1本分のガイド総重量が約0.3gと驚異的軽さを実現しました。また非常に柔軟なガイドであるため、ファイト時のクッション性能を有し、ベイトのドラグ性能を補いながら高弾性ブランクを守ります。更に内径でいえばトルザイト5番相当となるため、アジングロッドとしては望外に大きくなることもメリットです。また径と低熱伝導性により冬でもあまり凍りません。

これをスパイラルセットし、軽量化しながらベイトタックルなのにラインスラックを活かしやすい少なめのガイド配置となっています。

自作液状記憶チタンリコイルガイド
自作形状記憶チタンリコイルガイド

グリップ構造には複数の提案を織り込みました。まずはスレッド式スクリュー。これはパックロッドの装飾目的で以前製作した、スレッドでネジ山を作るものです。これを応用することで、極薄カーボンパイプがほとんど重量増なくスクリューパイプに変わり、手触りも通常のスクリューのように違和感を感じることなく、デザインのアクセントにもなります。

そしてカーボンパイプには大きなえぐりを施し、そこにフルカーボン成形のスクリューフードをアップロックで配することで、えぐり部とスクリューがトリガー的役割を果たすようにしました。重量が増すことなく、グリップ性も犠牲にしません。

そして常識を覆すのが、アーバーレス構造。ブランクはフォア部のカーボンテープ成形で同時に締め上げつつ、パイプ内は瞬間接着剤で固定。これにより軽量化はもちろん、ブランクをリールに直マウントし、ブランクそのものがグリップとして拡径したようなオフセット配置となります。感度面で前述のえぐり構造は一見不利になりますが、このマウント方法ではブランクの振動を直接リールで受けられ、またそれをグリップ構造で殺さずに済むため、パーミング時の感度に貢献します。(たぶん)また、ブランクがリールの上下方向の内側に完全に入ります。ベイトリールの大きな特徴に、「重心がブランクより上にくる」という点が挙げられます。この点はベイトリールにとって宿命的欠点ともいえ、いかに重心を下げるかはベイトリール有史以来の課題でもあります。それをグリップ側で解決するのがこの構造です。ただ軽いだけでなく、一味違った操作性を実現できたと自負しています。

最軽量アジングロッド グリップ構造
アーバーレス構造はこんな風に覗けます。ブランク高がほぼハンドル軸と同じ高さまでオフセット
最軽量アジングロッド グリップ構造
なお落書き保護とグリップ性向上のため、うす~く艶消しクリア吹いてます。落書きはマジで落書き以下

ティップは高弾性ソリッドを削り込み、先径0.55mmに。0.6g未満のジグ単を射出し、重みをしっかり感じ取れる変態ベイトロッドに仕上がりました。

最軽量アジングロッド ベンドカーブ
初期Ver.のアクションはこんな感じ。ソリッドの違和感もなく、ここからバットまでベンドカーブが移行します

テスト・改良と、衝撃の最軽量ベイトアジングロッドの出現

その後はテストを重ねます。懸念点はご想像の通り、チタンリコイルガイドの細さと放熱性の悪さによるラインダメージ、そして接着グリップやブランク自体の強度・耐久性です。結果的にこの2点の懸念は杞憂に終わりました。テストでは野鯉とフルドラグで戦ったり、PE0.2にリーダー2.5lbで管釣りバス100本連続水揚げ(本数テキトー)などいろいろ使い込んでいきましたが全く問題なし。腐ってもアメ竿(?)、スローに入るブランクアクションやガイドのクッション性も功を奏しています。

ただし初期型の改善点として、穂先側に使用したリコイルガイドが足無しの最簡素形状だったため、ラインがブランクに張り付きやすく、特に雨天時の飛距離をかなり落としていました。その点をオール高足形状にして解消したり、チタンティップをカリカリに仕上げて搭載してみたり、耐久テストを兼ねて何人かの知り合いにインプレをもらいながら色々試していました。また副次効果として、エリアトラウトにも非常に相性の良い特性になっていました。マイクロスプーンの振動が拾える感度と、バラしにくく寄せやすい調子が両立していました。縦釣りでの速掛け性能も高く、この汎用性は最終的なパックロッド化にあたり私が求めていたものです。

ちなみにチタンティップ。超高額な形状記憶チタンチューブを2本、チタンソリッドを1本組み合わせ、先述の自作リコイルガイドをチタンワイヤースレッドで固定。まさにフルチタンでこの重量。まぁ糸抜け悪化の原因でもあります(-_-;)普通のガイドならすげーティップです。

そんなある日、もう2021年も終わりに差し掛かっていたころ、同じブランクを手にされた某変態ビルダー(誉めてます)が、とんでもない魔改造タックルを発表されました。なんとロッド単体で15g切り、リールもとんでもない魔改造でタックル総重量135g切りというのです。それら重量も驚愕ながら、一番驚かされたのがそのマウント方式。実はこっそり事前やり取りで方向性は把握していましたが、完成品は想像のはるか先のクオリティでした。私が常識にとらわれて超えられなかった重心の壁(リールフット)をその方は軽々と超えてきました…。

とりあえずリンク貼らせて頂くので、もうこれ見て私のブログは読了で構いません(笑)

Twitterで各制作パーツなど見て頂くともっとすごいですぜ…。

「この方には色々な意味で一生追いつけないな」と思う方の1人です。しかしこんな作品を見せられては、灯がつきますよね。ご依頼品中心に進めていましたが、しばし失礼して最軽量竿のカスタムを再開します。

影響は強く受けていますが、同じ土俵で勝負するのではない。というか他人と向き合うより、目の前の竿と自分自身とに向き合う(あ、もちろん魚にもw)のがビルドです。ということで私は当初の目標に沿い、史上最軽量のパックロッドを目指します。

パック化を実施しながら、無駄をそぎ落とし、更に軽く、更に広く、更に機能的に。もちろん強度は落とさず。これを目指して再度向き合います。何度かやり直しましたが、とりあえず2021年大晦日時点での完成系がこちらです。

完成 14g切りのパックロッド

やったぜ14g切り! ※2022.1.3更新

Rod Name : Updraft (和訳:上昇気流)

Rod Weight : 13.92g

Length : 4ft10in  Closed Length : 40cm

Lure Weight : 0 ~ 5g

Target : アジ、メバル、トラウト、ライトソルトゲーム、日淡ライトゲーム全般

ロッドネームは個人的にウルトラマン関連もしくは地学関連からつけることが多いです。今回は地学用語で「上昇気流」。ベイトロッドでは滅多にないアップロックスクリュー、上昇気流を生むが如き軽さ、そして釣りという世界のあちこちで嵐を呼ぶような存在として。

ガイドはバット・トップも全て自作高足チタンリコイルに。これによりブランクへの張り付きは皆無、更なる軽量化、そして抜群の放出性能を実現しました。ただし唯一、微妙なフリーフォールテンションにおいてノットがトップガイドで引っ掛かりやすいというデメリットはあります。これはトップのみトルザイトにすれば解決しますが、実用においてメリットの方が上回ると判断します。

自作形状記憶チタンリコイルガイド
トップまでフルリコイル

ブランクとティップにも大きく手を入れました。実は元のブランク、逆並継構造の2ピース継ぎ目が相当に補強されておりました。日本の感覚からすると過剰ですが、このへんはやはりアメリカンです。またこの補強がベリー部の張りを作っており、アジング向けにはやや曲がり過ぎるきらいのある当ブランクにおいて、掛け感を演出するポイントでもありました。しかし今回、軽量化を図るにあたってブランク特性も1から見直しました。ソリッドティップは長め柔らかめで潮感度とキャスト時のウェイトの乗せやすさを重視していましたが、潮感度については驚異的な軽さとベイトならではの重心バランスによって、穂先が硬くてもかなり良好なことがわかりました。そこでソリッドを切り詰め、先径も太目に設定し、代わりに継ぎ目を加工して補強による突っ張りを消しました。結果、より竿全体のスロー感を活かしつつ、穂先の掛け感を向上。キャスト時は少し腕を選ぶものの、上級者ならジグ単でも竿全体の反発を使って射出できるようになりました。掛けた後はブランクとガイド双方のダンパー性能が発揮されます。太めの穂先は破損リスクの低減にも繋がります。

史上最軽量パックロッド
画像のバット側から3つ目ガイド部が元々の継ぎ目でした。ここを加工しています。実物は画像の印象以上に全体で負荷を受け止めるアクションです。

2か所の新設継ぎ目は、穂先側はゾディアスの折れ竿を追い込んで研磨、バット側は現行ワールドシャウラの折れ竿を追い込んで研磨。薄肉ながら十分な耐久性を持ちます。継ぎ目によるパワー感・アクションの変化を考慮してブランク長も微調整。この時点でパック化前よりも軽量化に成功していましたが、なんとか大台に乗せたい想いが。グリップ構造を改めて見直します。

結果として、某氏の思想に少し寄っていきます。パイプグリップであることは個人的拘りでもありましたが、重量面では不利。またベイトタックルの強みを活かすうえではパーミング性能の向上を図る方向が良い。そのためにはパイプは邪魔にすらなる。一旦の答えとしてはグリップを超ショート化しパイプはスレッドスクリュー部まで。更に開口部を広げ、エンドグリップをパーミング時に1フィンガーから3フィンガーまで引っ掛かりとなる位置に極小配置。これで操作感も向上しつつ貴重な1gを稼げます。いちおう各指本数に対応しますが、3フィンガーでキャストからファイトまで常に同じ握りで使うのが気持ち良いです。パック化前よりあらゆる操作にスピード感を得た、まさにUpdraftな使用感です。

4ft10inですが、ブランク有効長はあのベイトアジングロッド決定版と言われるクリアブルー社のBFマスターに迫ります。とはいえあくまでライトゲームをどこでも最大限楽しむことがこの竿の着地点。小川の雑魚から管釣り大物レインボーまでも相手にします。

史上最軽量パックロッド
エンド色はスレッドに合わせてクリアエメラルドグリーンに
史上最軽量パックロッド
パッツン系アジングロッドでは得られない竿全体でいなすフィーリングは、釣りを楽しくしてくれます

あとがき : 竿を継ぎ 人を紡ぐ

というわけでしばらくは耐久性確認もかねてしばらく使い込みますが、負荷テストを行った感じまず問題ないでしょう。仕舞40cmなのでどこにでも連れていけます。形状記憶なので輸送中のガイド破損もありません。いつでもどこでも最高のロッドを使うことができる喜び。また競うべきではないと思いつつ、以前購入しながら折ってしまったモーリスグラファイトワークス×モンスターキスの伝説的パックロッドnude(たしか34gくらい)の半分どころか1/3に迫る重量で、よりラフに使え更に高感度な点は個人的に満足です。どちらも尊敬する2大メーカーなので。

このブログの目的の一つに、タイトル通りロッドビルドを通じて人とのご縁を継ぐことがあります。この竿はそういったご縁によって創ることができたものだなぁと勝手に感じております。ブランクを共同購入したメンバーは今でもコアな情報交換を行っていますし、私が素人なりに色々なアイデアを考え作ることができるのも皆様からの依頼品に鍛えて頂いたからです。改めて皆様に感謝です。

そしてこれは2021年時点での着地点です。まだまだ先はあると感じています。重量も、おそらく10ftモデルをベースにするだけでもあと0.5gは削れますし、性能面も終わりはありません。加工技術ははっきり言っておそまつ。いろいろな意味で更にUpdraftしていけるよう精進したいと思います。ヲタク特有の早口長文にお付き合い頂きありがとうございました。

2022.1.3 がう