釣りの防寒レイヤリングでやっちゃダメなこと

2020年12月16日雑感

気づけば師走、皆さまはオフシーズンでしょうか、それともストイックに魚を追い続けるでしょうか。もし後者ならば、いかに極寒の中快適に釣りを続けるかは永遠のテーマかと思います。ここでは私が実践しているレイヤリングの紹介と、絶対ダメ!なレイヤリングをお話しいたします。


1.釣り用防寒ウェア、カジュアル防寒ウェア、現場職人用防寒ウェア、登山用防寒ウェア、スキーウェアは全部違う

さすがにスーツ用のコートで真冬に釣りする人はいないと思います。が、釣り専用は持っていなくて、登山用、普段着用、現場用、スキースノボ用などを使う方も多いと思います。もちろん何着も持つのは大変なので共用する必要も出てきます。ただ、それらには使用シーンによってつくりが異なっており、そこを理解するとより快適に着こなすことができます。

以下にざっくりと特徴を記します。

<現場用ウェア>
◎普段使いが多い → リーズナブルで耐久性がかなり高い
◎作業に使う → 動きやすく工夫されている(ストレッチ等)
◎作業に使う → 速乾性に優れたものが多い
◎普段使いが多い → 家庭で洗濯できるものが多い
×高価格にできない → 高機能には限界があり、一部の面で不満が残る製品も

<カジュアル防寒ウェア>
◎デザインが選べる
◎アウトドアテイストを取り入れた製品も増えてきた(近い性能を持っている場合がある)
×重い、かさばるものが多い
×防風、防水機能などはないものが多い(危険レベル)
×速乾性がないものが多い
×汚したくない

<登山用ウェア>
◎動き続ける → 動きやすく工夫している
◎冷えが生死に関わる → 吸湿速乾性に優れたものが多い(インナー)
◎重量が生死に関わる → 極めて軽量
◎長時間止まったり天候変化もある → 重ね着(レイヤリング)と頻繁な脱着を想定している
◎家庭で洗濯できるものが多い(ダウン除く)
◎普段着としても使える
×高価格なものが多い
×レイヤリングしないと各層単体では不快
×軽さを優先するので生地が薄いものが多い

<スキースノボ用防寒ウェア>
◎運動量と稼働範囲が極めて大きい → ゆったりしたつくり
◎よく擦れる → 耐久性が高い
×デザインも大事なため運動量のわりに重いものが多く、ロッド操作もしにくい
×釣り場では見た目にちょっと違和感

<釣り用防寒ウェア>
◎静止している時間が長い →防寒防風性能が高いものが多い
◎磯などを歩く → 耐久性が高い
◎ 道具が多い → 収納製が高い
×重く動きにくい製品が多い
×暖かさの調整がしにくい
×比較的高価格
×釣り以外では見た目に違和感


このように、用途によってかなり特性が異なります。普段用ははっきり言って危険レベルなので基本使いませんが、他のジャンルのウェアを使うときは欠点を防寒着以外で調整する必要があります。

では専用品である釣り用のウェアなら間違い無いのか。私は違う意見です。次に、絶対ダメ!なことを書きながら、私流の釣り場着こなし術をまとめます。


2.絶対ダメなこと

<吸湿発熱素材のインナー>
ヒー○テッ○をインナーに着ている人、多いんじゃないでしょうか??意外かもしれませんが、ダメです、絶対にダメです!○ート○ックは汗を吸って発熱する吸湿発熱素材です。これはたしかに普段着としては暖かいのですが、屋外で使うにはかなり問題があります。

それは速乾性がないことです。着るとまず、汗が出るまで暖かくない。そして汗が出はじめたら一気に暖まる。さらに汗が増えると乾かず冷えていく。釣りも少なからず体を動かします。釣り場まで移動する時、激しくシャクる時、そんな時に汗をかいてしまったら…アウターを脱がない限り汗は留まり続け、体を冷やしていきます。これは動き続ける登山などでは死に繋がるレベルの危険性です。登山ほどではないにせよ、釣りにおいても一瞬汗をかくような状況になっただけで不快度が上がってしまいますので、避けるべきなのです。

※普段使いでは優れたウェアです。また釣りにおいても汗をあまりかかない状況、体質でしたら着用自体は可能です。2022年現在、吸湿発熱でかつ速乾性もあると謳われたインナーも登場しています。またユニクロも毎年素材をアップデートしていますので、常識は変わっていくかもしれません。それでも、汗に暖かさを左右されない方が温度は安定します。止まった時に温まってほしいのに、動かないと温まらないのは困ります。

<ダウンジャケット>
これも意外かもしれませんが、ダメなんです。ダウンが防寒着として優れている点は、羽毛によってウェアを膨らませ、多量の空気を断熱材として体にまとえること、かつ極めて軽量であるという点です。軽量でしかも潰してコンパクトにしまえる特性から、登山用で古くから使われてきました。ただ決定的な弱点があります。湿気を吸うと極端に防寒性が落ちるということです。汗からくる湿気、外気や雨からくる湿気にさらされると、膨らみ(ロフト)が急激に落ちます。またなかなか乾かないので、ずっと冷たいままになります。汗もほとんど出ないような極寒条件、ほとんど動かない釣り(ボート、エサ等)なら着ることはできますが、特に動きが多いおかっぱりルアーフィッシングなどにはオススメできないのです。

※この部分は諸説あります。湿りさえしなければダウン以上に優秀な保温ウェアはありません。なので条件次第では有効にもなります。ただ個人的には後述する「化繊ダウン」が優秀なのでそれをおすすめしたいです。


3.登山用レイヤリングを応用した釣り向け着こなし

釣り用防寒ウェアはもちろん釣りでの快適性を考えているので、悪い選択肢ではありません。しかしデメリットもあるのは先に記した通りです。釣り用は中綿と防風シェルが一体のものが多く、ゴツい傾向にあります。重く動きにくいウェアは度重なるキャストを不快にし、暑すぎ、寒すぎの時に調整が難しいです。私としては、より様々な気候条件に対応できるよう登山ウェアの考え方を取り入れつつ、色々なジャンルのウェアをうまくミックスした方が快適であるという結論です。

モンベル社HPよりレイヤリングのイメージ

<レイヤリングの基本とは>

登山ウェアの重ね着の仕方は、ウェアを大きく分けて3層に分類します。それぞれ目的が違います。

◆インナー(ベースレイヤー)
肌に密着して湿度をコントロールする(吸湿速乾)

◆ミッドレイヤー
空気の層をつくり、体からの熱を閉じ込め、湿気も逃す

◆アウターシェル
雨、風、汚れ、怪我から肌やミッドレイヤーを守る

このように明確な役割があります。

ここに登山ではあまり重視されない点(耐久性、収納性)を付加すると、非常に快適な釣りウェアが出来上がります。

実際に組んでみましょう!

1)インナーは化繊100%の速乾素材で

とにかく肌に汗を溜めないことが最優先です。そうなると化繊100%の吸湿速乾性インナーが必須です。まだまだラインナップとしてはアウトドアブランドが主になってしまうので、ヒートテックに比べると値段が張ります。が、とにかくインナーに一番金をかけるべきといっても過言ではありません。それくらい重要です。

おすすめは日本のアウトドアの宝モンベルのジオラインシリーズです。厚みと形状で複数ラインナップされており、私は中間のM.W.をメインに、ヤバい時はEXP.もしくはM.W.を2枚重ねで着ています。着てみるとわかりますが、ミッドレイヤーが適切なら本気で100m走してもすぐ汗が引くくらい排水性能が高いです。かなりの保温性と強ストレッチ性、防臭性も持っており、何より他のブランドよりはお手頃です。広告とか貼りませんので買って下さい。それくらい強くオススメです。注意点としては、サイズ感はタイトな点と、ややほつれやすい点です。タイトなのは肌に密着させるためなので、特に問題ありません。隙間があると熱が逃げますのであえてそういう設定なのだと思います。ストレッチも効くのでタイトでも着心地は良いです。

万全を期すなら、更に内側にメッシュ系のインナーを着ると、速乾性はより高まります。

他にメリノウール製インナーも非常に優れています。より薄くても保温効果があり、吸湿しつつ湿っても保温効果が落ちにくく、化繊以上の防臭効果があります。ただ敏感な人はチクチク感じやすいので、高価なものしか快適でなかったりします。私は高価なものでもダメですね…。

2023.1追記:ワークマンからメリノウール100%インナー、メリノウール50%インナー、化繊100%極厚インナーが出ています。試しにいくつか使ってみました。

メリノウールは厚みや比率で複数あるので注意。企業戦略として仕方ないのですが、売り切れが多いのが惜しいですよねぇ。

購入できたのはメリノウール100%の中厚とサーモマックス。前者は中厚といってもやや薄め。しかし意外にもチクチク感が少なく、この点では高価格帯製品に引けを取りません。サイズはタイトめですがインナーなのでむしろOK。この冬はヘビロテしましたが、今のところほつれや大きな毛羽立ちもなく、暖かさも厚みからすれば十分以上で、かなり好印象です。ただやはりメリノウールということで、排水性はジオライン優位です。そもそも素材的に合わない人にはお勧めできません。しかし何と言っても1980円。製造過程に闇があるのではと勘ぐってしまう価格ですが、メリノウール入門としては大いにアリです。前述のメッシュ系インナーと組み合わせるのも良いでしょう。

サーモマックスは分厚くしっかりした生地で、暖かさは十分です。タイトで少しだけ排水性と伸びのあるフリースとでもいうような着心地です。とはいえその排水性はジオラインに劣り、重さもあります。しかし二千円を切る安さですし、おそらく耐久性では勝ります。現行のヒートテックは引き続きコットンベースなので、それよりはずっとお勧めできます。

2)ミッドレイヤーは化繊ダウンかフリースで

いくつか値段と暖かさ別に候補を挙げました。レイヤリングにおいて基本的な暖かさを決定するのはミッドレイヤーです。ほしい暖かさに応じて選びます。

ここでも大切なのは、速乾性能です。せっかくインナーを通じて肌から離れた湿気がミッドに溜まってしまっては、保温力が台無しです。そこで向いている素材は2つ、フリースと化繊ダウンです。

基本的にミッドレイヤーに防水防風性能は不要です。それよりもしっかり空気を溜め込み、汗が抜けていき、更に軽くて動きやすければ理想です。

フリースは比較的軽量で、通気性が良く、空気を溜めてくれるため、元々はミッドレイヤーとしての素材です。関東以西の平野部の冬であれば、ユニクロのフリースで通気性が良いものをミッドに配置すればほぼしのげます。ストレッチも効くものが多いので、安くて十分に快適です。

更なる快適性、保温性を求めるならば、化繊ダウンという選択肢があります。これは羽毛の代わりに化学繊維で似たような効果を再現したもので、近年急速に性能が上がっています。今まではダウンの偽物、安物だったのが、ダウンに迫る軽さと暖かさを手に入れてきています。フリースより圧倒的に軽く、生地や構造次第でストレッチも効き、汗はバンバン排水します。そして何気に嬉しいのが、「家庭で洗濯可能」なんです。すぐ乾きますし、シーズン中汚れを我慢しながら着続ける必要がありません。釣りをしてるとどうしても汚れますからね。釣りから帰ってきて、夜洗濯機にかけて部屋干ししておけば、冬場でも6時間もあれば乾いています。

値段、保温性でいくつかピックアップしました。個人的にパタゴニア大好き人間なので、パタゴニアからはナノエアとマクロパフを。前者はアクティブ系と言われ、フリース以上の強ストレッチ性と通気性を持っています。また生地の手触りが良く、ずっと着ていたい気持ちにさせられます。もちろん蒸れはなし。

後者のマクロパフは、より分厚い膨らみ(ロフト)を持っており、そこそこ厚いダウンと同等の保温力があります。アクティブ系ではないのでストレッチはほぼありませんが、裁断が良いので動きやすいです。登山ではアウターに使えるほどの防風性もありますが、釣りにおいてはアウター必須です。パタゴニア以外にも各社出してますので、予算が許せばお好みで。

※マイクロパフというのもありますが、かなり薄手になりますのでご注意!

リーズナブル部門では、ワークマンのダウンをおすすめしました。これも化繊ダウンになりますが、単体でも防風防水性能をかなり持たせています。ストレッチ性もあり、街でこれだけ羽織ればOKという狙いです。ただ釣りにはどうせ防風性能が不足するので、それを省略して軽く作ってほしかったですが、値段を考えれば十分以上です。近年はラインナップも幅広くなっているので、よりオススメなものが出てきそうです。

これらで不足するほどの寒さであれば、インナーを強化するか、羽毛ダウンを湿気に注意しながら運用するのが良いでしょう。

3)アウターシェルは安物でOK

インナーとミッドで閉じ込めた熱を、外に逃さず守ってくれるのがアウターシェルです。ダウン羽織っただけで釣りに行けば、吹きつける風に熱を奪われ、悲しいことになります。

このアウターですが、ミッドまでを適切にレイヤリングしていると、実はそんなに着膨れせずに済んでしまいます。ということは、普段使っているレインウェアが使えてしまうんですね。レインウェアは防風性能も優秀です。雨や雪の日でもそのままのレイヤリングでOKです。これは無闇に重ね着しているとできないことです。もし夏用のしっかりしたレインウェアがあればそれを着ましょう。

冬用を新規で買う場合、アウターシェルは実はケチってもOKです。夏ですと汗が多量に出るので透湿性も大事になってきますが、冬ならミッドまで抜けてくれれば十分快適です。一番消耗するのもシェルですので、安物でも構いません。雨風をしのいでくれること、袖口を絞れて風をシャットアウトできること、などが条件です。

いいモノがほしければ、GoreTex使用製品が間違いありません。防水性能はもとより、透湿性もバッチリで、アフターや品質管理も厳格。信者が多いのも頷けます。ただし注意点として、登山用の安めのGoreTexシェルですと薄すぎて耐久性が低く、また袖口から風が入ってきてしまう場合があります。磯などで使う方はすぐ破れてしまってはいけないので、丈夫なものが良いです。それでもビリッと逝く時はあるので高価なシェルは悩ましいですね。

私がここ数年愛用しているのは、ブリーデンのeVentレインジャケットフーディ。eVentはGoreTex同等の防水性と、GoreTex以上の透湿性を謳う素材です。正直かなり高いので中古で出会わなければ買いませんでしたが…。たしかに透湿性はすごく、夏の雨も快適です。お尻や膝部分は補強されているので、防波堤程度の使用であれば破れリスクも小さいです。あとはシルエットが綺麗なので着膨れせずにデブがバレずに済みます。袖口はインナーがありませんが、絞ることはできます。

繰り返しになりますが、一応いいものを紹介したものの実際は安いのでいいです。ただしワークマンやユニクロのレインを選ぶ場合は防水性能の表記に注意です。耐水圧10,000mmくらいですと長時間の雨ではヤラれます。中途半端な機能性レインよりはビニール製の方がマシだと思います。2020年冬現在、ワークマンにオススメできるほどの製品が無かったのでリンクは貼っていません。前はあったんですけどね…。今後に期待!

東京輪シーバス
冬の東京湾。気温はそこまでですが、フルスロットルの風も耐えます。

写真はジオラインM.W.→マクロパフフーディ→eVentフーディの3枚です。着膨れなく、快適にキャストを続けられます。これにパンツ側はジオラインインナーと山パンツにeVentの順です。更に上下のインナーを強化すれば、冬の北陸日本海もOKでした。

なお収納については、ウェアに求めずバッグやライジャケに任せた方がいいでしょう。どんなに工夫しても夏よりはウェアが重くなりますし、ポケットを開けるだけでも熱は逃げます。軽いレイヤリングに仕上がるに越したことはありません。

4)指を出しても寒くない釣り向けハンドウォーミング ※2021.12追記

体幹をきっちり保温しても、末端が寒ければ釣りは快適になりません。足についてはソックスやシューズで普通に暖かくすれば問題ありませんが、問題は手です。特にベイトリール好きな私は、サミングの親指、トリガーの人差し指はできれば素手にしておきたい。しかしそれではすぐかじかんでしまいます。昨年からいくつかの組合せを試してみましたが、十分釣りが続けられるセットが見つかりました。

FoxFireのハンドウォーマーが昨年あたりから流行りはじめ、私はがまかつの類似製品を購入しました。それらの性能差はわかりませんが、少なくともがまかつは快適です。手の甲の血流を暖めておくことで末端の冷えを防げるという仕組みなのですが、気温5℃程度までは本当にこれだけで過ごせます。

がまかつハンドウォーマー
がまかつハンドウォーマー

またこのハンドウォーマーの良いところは、他のグローブと組合せが効くことです。私はもう少し寒いシチュエーションでは、オールシーズン使っている薄手のUVカットグローブの上から使っています。微風0℃までこれでイケています(脂肪が厚いだけかも…。)

↓SIMMS ソーラーフレックスグローブ

https://www.bluedun.net/simms_solarflex_sun_glove.html

更に寒いコンディションでは、3本指無しのネオプレングローブの上から使用します。ハンドウォーマーの保温効果を少し無駄にする感じはありますが、指も動かしやすく、金属リールの冷たさも感じず、感度も落とさずギリギリかじかまずに釣りを続けられます。更に暖かくしたい場合はハンドウォーマーのホッカイロスペースを利用しましょう。現状ではこれが最適解となっています。

モンベル クリマプレンスリーフィンガーレスフィッシンググローブをインナーに
吹雪でも大丈夫

https://webshop.montbell.jp/sp/goods/disp.php?product_id=1126181


余談.ヒートテックもメッシュ系インナーと組み合わせでOK?!

なんとヒートテックでエベレスト登頂という偉業が達成されていたそうです。ユニクロも速乾性の問題については認識しているそうで、それを払拭するパフォーマンスであったのかと思います。ただし…ヒートテックの内側にはネット民からKBTITシャツと揶揄されるメッシュ系インナーが仕込まれていました。私自身、メッシュ系インナーはfinetrackのドライレイヤーベーシックを所有しており、夏でも冬でも本気の時はインナーの中に仕込んでいます。ヒートテックと合わせてどうかは試していませんが、本当に機能するなら面白いですね!

そして、当時ジオラインを知るきっかけになった。KenDさんの記事。自分なりに研究した結果、辿り着いたのはほぼ同じ結果でした。(私がただの劣化パクリ疑惑w)