パックロッド論① 印籠によって変わる竿の「強さ」※ BWS-86FCXレビュー含む

2020年12月11日ロッドビルド論

※素人がぼやく眉唾論です。話半分でお読み下さいませm(_ _)m

ロッドビルドといえば普通は市販ブランクを購入し、各種パーツを組み合わせて行うものですが、私の場合はリビルドが多いです。特にパックロッド化を好んでやっています。ほんの数年前までは、ほしい調子のパックロッドを選ぼうとしてもありませんでしたからね。とりあえず刻んでみろ、と。

ここではそんな製作過程で感じたパックロッド化のキモというべき点を少しずつ語っていこうと思います。


さて、あるワンピース竿をパックロッド化しようとします。最もベーシックな方法は、分割したい数に等分(ただし継ぎ部分の長さを考慮)して、印籠芯を挿入・接着して繋ぐ方法です。要は印籠継です。この印籠芯(フェルール)は、実は竿の性格にかなり影響を与えます。

当然ながら重量はワンピース状態よりも重くなります。測ってみると数gなのですが、これはロッドバランスにかなり影響を与えます。本格的にリメイクする時はこのバランス調整もしっかりやる必要があります。

そしてあまり知られてないのが、竿の「強さ」に与える影響です。ここでいう「強さ」とは、破断強度のことではありません。残念ながらマルチピース化によって元の竿より丈夫になることは「ほぼ」ないです。(極めて限定的ですがゼロではないと思っています。) しかし竿のパワー、つまりキャストウェイトや魚を浮かせる強さは、元の竿より高めることも可能なのです。


フェルールの製作は、竿の内径ピッタリという制約の中で元の竿と同じくらいの張りを生み出すため、丁度いい端材を探すところから始まります。

フェルールの材料選び
だから肉厚の折れ竿はいくら持っていても困らない

専用設計ではない以上完璧にはなかなかなりませんが、なるべくイメージに近いものを目指します。実はここでイメージするのは、必ずしも同じような曲がりを出すということではありません。

フェルール製作
二重印籠。このへんはまた別の記事で。
アクションの確認
いい感じですね。

さて、この継ぎにおいて意識したのは一応「元の竿と同じアクション」でした。これがうまくいけば少し重くなるだけでワンピースの時と同じような使用感になる?いえ、違うんです。

重くなることで、振った際に竿の自重でよく曲がるようになります。そのため元の竿よりダルいフィーリングが生まれます。これは必ずしも悪いことではなく、タメの効く扱いやすい竿になります。そしてわずかに増えた重量は、竿にわずかばかりのパワーを与えます。ブランク重量はある程度ロッドパワーと比例するというのが持論です。全く同じアクションを印籠継で再現した竿は、使ってみるとちょっとだけパワーのある竿になったと感じるでしょう。

※ここでいうパワーとは、反発力とも少し違います。説明すると長くなります(というか上手く説明できません)が、よく言うトルクに近いイメージです、どちらかというと。トルクって言葉も怪しい言葉ですが。竿の表現って難しいですね。


今度はブランクに対し硬めのフェルールを組んでみましょう。これは私なんかの駄作より素晴らしいサンプルがあります。ロッドビルドの神ことモーリスグラファイトワークス安達氏の作品、チューンドバックウォーターBWS-86FCXです。

モーリスグラファイトワークスBWS-86FCX
これが量産竿というのが未だ信じられず
モーリスグラファイトワークスBWS-86FCX
カッコよすぎるだろ…

この竿はグラスベースで5ピース印籠継というトンデモ竿なのですが、グラス&マルチピースのイメージを覆す軽快さと、意外なまでのパワーを感じる竿です。販促ページによると「肉厚スリム構造の各スピゴットフェルール部分が竹の節の役割を担い…」と書かれております。このワードが実に気になっていたのですよ。で実物を手にしてみたら…

モーリスグラファイトワークスBWS-86FCX
印籠部分
太っ!!

思わず叫びましたよ。薄いグラスブランクにこんな肉肉しいフェルール挿しちゃうんですか!想像以上でした。で、使ってみるとこれがいい仕事をしているのがわかります。

グラスブランクは粘りや追従性があるものの、どうしても反発力やリフティングパワーに劣ります。特にこの竿は長尺なので薄肉グラスで大丈夫?って不安だったのですが、実際はかなりのパワーを持っていました。たしかにグラス竿なんです。グニャっと曲がるのに、負荷をかけると中弾性カーボン竿を使っているような力が。不思議な感覚です。おそらくこの感覚を生んでいるのが竹の節たるフェルールです。アクションを乱さないギリギリの範囲でゴツく仕上げたフェルールが、この竿にパワーを与えていました。

そう、フェルールを強めに作ることで、竿にワンピース以上のパワーを与えることができます。もちろん重量は増しますが、軽いだけの竿には力をもたらしてくれます。安達氏は、グラス素材を研究したことで軽量カリカリロッドの破断強度と粘らなさを克服し、更に普通は竿の性能ダウンを招くと思われるマルチピース化を、グラスに不足するパワーを補う性能アップシステムに昇華し、ワンピースより軽く、柔軟で、丈夫で、パワーのあるマルチピースという常識は外れの竿作りを見出したのです!(たぶん)


安達氏のような極端な設定はなかなかできませんが、私もどんなフィーリングに仕上げたいかを思い浮かべながら印籠芯を作っています。まずは元の曲がりよりわずかに硬いくらいが基本と考えます。この設定だと、わずかな重量増とわずかな張りの向上がバランスして、元の竿に近い振り感が得られます。重くなった分はパワーとして還元されます。印籠芯にもブランクにも負担は少なく強度的にも安心です。ここがマルチピース化で得られるフィーリングの基準値です。

ここからわずかに硬くしたり柔らかくしたり設定することで、竿の性格を変えていけるのです。ただ単に刻んで重く脆くするだけじゃなく、狙う竿に近づけていけるのです。面白いですよ。

※更に、フェルールに使う素材の特性も影響します。チューブラーかソリッドか。高弾性か低弾性か。そのあたりはまた別の記事で。


最後に、印籠継ではないのですが継ぎを弱めに作った例を。

フルソリッド4ピース
フルソリッドのマルチピース化
実は一部が弱いんです
一見きれいに見えますが

この竿はXULとはいえバスロッドをトラウト用にリメイクしたものです。ワンピース時はちょっとトラウト用としては曲がりにくさを感じたのですが、マルチピース化の時に#2と#3の継がほんの少しだけ弱めに作られています。最初は「あ、弱すぎたかな?」と思いましたが、試してみるとベリーを鞭のごとく振り出すようなフィーリングが生まれ、軽量ルアーのキャストが容易になりました。弱める方向の調整は破断リスクを持っているので、強める方向より限度がありますが、この竿の場合はカーボンフルソリッドにグラス継材なのである程度許容されました。見た目にはあまりわからない程度の弱め方です。それでも確実にフィーリングは変わります。

単なる修理、魔改造ではなく、竿との対話。竿に命を吹き込み直す作業といったら大袈裟でしょうか。そんな気持ちで竿を継いでおります。