ダイレクトリールで1gキャストは可能か。メリットはあるか。答えはここに。

2020年12月10日リール

ダイレクトリール。おそらくほとんどのルアーフィッシャーマンは触ったことすらないはず。クラッチ、ドラグ、アンチリバースといった現代ベイトリールに当たり前の機能がない、ただの糸巻き機。ハンドルを回せばもちろん糸は巻ける。しかしキャストの時にスプールはフリーにならない。投げるとハンドルも一緒に回ってしまうのである。スプール重量0.1gでしのぎを削るベイトリールにおいて、それがどれだけ非効率かはおわかり頂けるだろう。前時代の遺物、それがダイレクトリール。

…なんて一般論で終わりたくないのですよ!変態タックルカスタム野郎としては、ダイレクトリールの可能性を追い求めてみたいのです。常識を打ち破る性能のダイレクトリールは作れないのか。そこに見える世界はないのか。そしていつかは完全自作リールを、という夢。これはそんな非合理な探求の先に見え隠れする大いなる可能性のお話です。


アブガルシア、シェイクスピア、ラングレーといったオールドタックルとしてのダイレクトリールは、かなりの数が現存しています。タックルベリーなんかの中古店にいっても、隅のほうに何台かあったりします。相当マニアックな部類ですが、バスのトップウォーター専門の方々が趣を求めて使われることがあります。ただ需要がその程度なため、かなり安い。骨董品として価値あるものは別として、だいたい1万円握りしめていけばとりあえず使えるリールが手に入ります。ただこれらはイメージの通り、ルアー重量が1ozはないとまともに投げられないです。

しかし実は現代でもダイレクトリールは生産されています。

トップウォーターの世界で有名なバスポンドさん。五十鈴工業のOEM製造により現代版ダイレクトリールを販売されました。その名もリボルバー。モデルチェンジを繰り返しながら、今も限定販売やコラボなどで発売されており、今年は五十鈴工業ブランドでも販売されました。オールドタックルは当たり前にベアリング無しなのですが、リボルバーはフルベアリング。これが現代で一番よく回るダイレクトリールです。あとは落とし込みリールの転用や、ZEALが発売していたHEPTA(厳密にはセミダイレクト)なども考えられますが、現実的にはこのあたりでしょう。

※脱線。ZEALの柏木氏は本物の天才だと思います。私ごときが考えるようなことは、柏木氏がすでに到達していた場所であることが多いです…。

学生以来久々に釣りを再開したばかりの頃、ためしにリボルバーを買ってどこまで軽いものが投げられるか試したことがあります。結果、細いPEを少なめに巻いてもせいぜい7gくらいが実用下限値でした。とてもフィネスリールとしては成り立ちません。たしかに回転はすこぶる良いのですが、スプールの重さが決定的です。ただでさえハンドル、ギア、レベルワインドといった駆動系ほとんどを引っ張って回さないといけないのに、スプール自体もゴツかった。

しかし、この時の使用感は強く印象に残りました。キャストと共にシュワーンと回るハンドル。極めてダイレクトな巻き心地。無駄のないシンプルなフォルム。男心をくすぐる何かは感じていました。

そして時は流れ2019年。少しばかりカスタム技術の上がった私に、「今ならフィネス対応のダイレクトリール作れるんじゃないか」という天啓が。早速ベース機を探します。

ラングレー ルアーキャスト ダイレクトリール
お気に入り。持ち方にセンスが溢れてる。

選んだのはオールドタックルの中からラングレー社のルアーキャスト。ラングレー社のダイレクトリールはもちろんベアリングなんて洒落たものはありませんが、造り自体は良く、何よりアルミ製ブランキングスプールを搭載。駆動系も軽く作られており、実はリボルバーよりも吊るしで軽量ルアーに強いリールです。ルアーキャストはその中でもナロースプールで最小最軽量。ベースとして最適でした。

ラングレー モデル340 ダイレクトリール
これは保管用に買ったルアーキャストのレベルワインドレス版。現代でも通用する軽量スプールと、ギリギリまで軽く華奢につくったハンドル

値段も状態気にしなければ1万円以下、玉数も比較的多いのでうってつけです。手のひらサイズでかわいい。これをベースにカスタムしていきました。

魔改造感満載

改造前の写真が娘の手持ち写真しか残っていないため、いきなり完成。できたのは怪しさ満点、雑カスタムの魔が潜むリールです。スティーズAIRも真っ青なアンダー120g。

とにかく駆動系の軽量化を図りました。レベルワインドはアベイル製アンバサダー2500C用を切断し移植。ウォームシャフト周りの寸法が同じで助かりました。アブは偉大。油脂類は禁断の総オイル仕上げ。

ハンドルは同じラングレー社のストリームライトのものが最軽量だったので搭載。ノブ込で5g台です。

スプールは大胆にブランキング。どうせラインは少ししか巻かないので、外周は大きくカット。糸噛み?バックラしなければ大丈夫っしょ(ホントか?

これで管釣りへ持ち込んでスプーニングチャレンジしてきました。

イワナセンター。たしか1.2gスプーン。

いやはや想定以上の出来。1gあれば何とか釣りになる飛距離が出ます。4:1以下のローギアは巻きの釣りにピッタリ。そして魚も…釣れちゃいました。1.5gのスプーンで。走られるとハンドルはぎゅんぎゅん逆転。サミングとハンドル保持力を繊細にコントロールしてファイト。楽しすぎます。いやこれはとんでもない世界に来てしまったのでは…。

まぁバックラッシュすると絡みます。お魚はあとでスタッフがおいしく頂きました。

さてこうなると、究極を求めたくなります。アンダー1gの世界へ。現代のベイトフィネス機を凌駕するキャスト性能、理想的ギア比、レフトハンドル、そしてこの時点で見えつつあったダイレクトリールゆえの優位性、更には所有欲。それらを満たすリールを誕生させたくなりました。

ベース機は再検討。上記の目的を満たせるものを古今東西探し、ついに見つかりました。それはモラムSX1601C Mag。IVCBでもUltraMagでもなく、素マグがベスト。スプール径が比較的小さい、小径ドライブギア、社外スプールの存在、完全丸型、比較的軽量、マグブレーキによる調整、そして限定今江モデルの存在。ほぼ完璧です。

モラムSX1601Cmag ダイレクトチューン

これまたいきなり完成。大先生のサインがレーザー刻印され、所有欲を高めてくれます。

今江グランドスラム

スプールはアベイル製がベストでしたが、再生産の見通しがないので中華製。紙のような薄さで6g台。ラインはシンカーアジング0.4号。これでライトゲームの魚を捌けるくらいのコントロールが効きます。

紙のような薄さ。意外と耐える。

レベルワインドはラングレーと同じくアンバサダー用。こちらはカットではなく曲げ加工でギリギリOK。

内部は、ドラグプレートをギアに耐衝撃ボンドで接着。もちろんドラグワッシャーやクラッチ機構は抜きます。ワッシャーで高さを合わせ、ローラークラッチはローラーを全玉抜き。スタードラグ周りも取っ払い、メインシャフトは大胆にカット&ハンドル固定のための溝を切り込み。スプールベアリングは無駄にフルセラミックタイプに。玉だけじゃなく内外輪も真っ白。五月蝿いです(笑)

このモデル唯一の弱点であるメインシャフトの支持ですが、ハンドルプレートの下にベアリングが入れられました。ただし少し緩いので、とりあえずシールテープで調整。ハンドルはラングレーのものを加工し移植。なかなかこれだけ軽量コンパクトなハンドルは他にありません。

うはは

なんと0.6gスプーンがピッチングできてしまいました。ついに人類はたどり着いたのです。極ベイトフィネスダイレクトリールの世界に。

そこからは色々な魚を釣らせてもらいました。キャストは駆動系の抵抗がほどよいブレーキとなり、マグの微調整も効くので自由自在。スプールの耐久テストも兼ねて16lb巻いてビッグベイトも投げましたが、ブレーキ設定が出せます。(非推奨) フォールの糸の出が悪い以外は何ら不具合なし。バイトがあったらすかさずサミングをかけてフッキング。ドラグの代わりにハンドル保持力をライン強度に合わせ一定に保ち、走られたらサミングで送り出す。ハンドル持ってないとラインが止まらないのでハンドランディングは工夫が必要。楽しい。実に楽しい。

ラインセッティングや油脂の塗り方も見直し、キャスト性能はさらに向上。ファイトも慣れてきたため、そこそこの魚も細糸で取り込めるようになりました。

アジング中に2.5lbリーダーで上げたイナダ。走られまくり。
テレスコ竿と相性が良く、現在は太糸を巻いた2スプール体制に。こんなハンドルでもちゃんとゴリ巻きできます。

<ダイレクトリールのメリットとは>

ここまで使い込んできて、見えてきたメリットがいくつかあります。決して酔狂だけではない、たどり着いた者だけが見える境地。

まずキャスティングにおけるメリット。上記カスタムのように性能を追い込んだ前提ですが、駆動系の抵抗が丁度良いブレーキになります。モラムは微調整のためマグブレーキも併用していますが、セッティングはラインやリグを変えてもほとんど弄りません。PE0.4+2.5lbリーダージグ単から、PE1.0+16lbリーダービッグベイトまで同じセッティングで投げられます。アンバサダーを使ってる方ならわかると思いますが、あの柔軟性を一歩進めた感じです。

次に操作性です。ラインの出し入れにクラッチが要りません。巻き中に瞬時にラインを送り出すといった芸当が可能です。現代ベイトリールでもできなくはありませんが、快適性が違います。またボディが軽く、その面でも軽快感が生まれます。

そして掛けてからのメリット。親指の反射神経と力加減をマスターすると、バイト時の適度な送り出し&フルフッキングが両立できます。そこからは腕(指?)次第でドラグコントロールは無段階リアルタイム調整です。これはどんなに優れたドラグを得たリールでも到達できない性能です。

最後に、リール感度の高さです。特に巻き感度。部品が少ない軽量ボディ、軽く余計な機構がつかないダイレクトな駆動系、超ショートハンドルがまず感度を高めます。そしてローラークラッチがないことでアタリなどの荷重変化や振動がクラッチで止められず、直接ハンドルにテンションとして伝わります。これは使った方なら驚くはず。ダイレクトリールはアタリがとれるリールなのです。

Q.デメリットは? もちろんあります。

ハンドル長と重量がめちゃくちゃ性能に効いてきます。とにかく軽くて短いハンドルが絶対です。なのでゴツいハンドルでゴリ巻きなんてのは不可能です。仮に重いルアー専用でハンドルデカくしたとしても、それが高速回転したら凶器です(笑)でも見ての通り華奢なハンドルですが、短い分たわみにくいので、意外と巻き切れます。70cm鯉くらいなら流れの中でも綱引きできました。

あとオールドの元々ダイレクトリールだったものはクリッカーがついており、スプールの回転を抑制できますが、モラムのような現代リール改造品はクリッカーがないので移動時などはメカニカルブレーキで押さえる必要があります。

このスプール回転を止める方法がないのはけっこう痛いところで、特にランディング時にリールから手を離すと魚に走られてしまいます。ショートロッドでリール持ちながらうまく掴むか、ネットを使うか、ラインを直接持って掴むかの3択です。

軽量ルアーを想定する場合、駆動系の抵抗を減らすためなるべく油脂類の粘度を低くする必要があります。これはギアの消耗を早めますし、ノイズも出やすくなります。

フリーフォール時の抵抗が大きいので、あまり軽いリグだと全く糸が出ていきません。アジングやってるとカーブフォールか手で送り出すしかありません。

最後に、遠投は限界があります。ここはまたカスタムで超えてみたいと思っていますが。

逆に、デメリットはこれくらいです。使い手次第で十分対処できます。


上に挙げたようなメリットはトップウォーター専用の普通のダイレクトリールにも存在しますが、それらはトップではあまり必要なく、楽しさと酔狂の影に隠れてしまってます。使いにくいから楽しさが増す的な。たしかにそういう面もあります。ただ、本当に腕と性能を磨けば、現代のベイトリールにないメリットも活かせるのです。車でいうマニュアル車に近い感覚です。技術の進化によりオートマに対する優位性はほとんど見えない。しかし乗り手の技術があれば同等以上に走らせることができ、マニュアルにしかできないこともある、と。

現在は、これらダイレクトリールのメリットだけを抽出した攻撃的現代式ベイトフィネスリールを構想しています。釣り勝てるリールという狙いです。もう方向性はまとまっています。うまくいけば性能面でダイレクトリールを使い続ける理由は薄くなります。ただし、これを実現できたとしてもダイレクトリールは使い続けるでしょう。楽しいですから。魚との距離が縮まる気がします。ねじ伏せるのでなく、自らが追従して呼吸を合わせていく。そんな感覚を味わえるのがダイレクトリールなのです。