印籠継・並継・逆並継 どれがいいの?② 竿の折れるメカニズム・破断リスクのある部位の違いと対策

2020年12月28日ロッドビルド論

※例の如く素人の眉唾論です。間違った点もあるかもしれませんので、話半分でお読み下さい&お気づきの点はぜひご指摘下さい!

①では、それぞれの継ぎ方によるロッドの性格・設計の違いについてまとめました。基本的に優劣はありません。それぞれに得意な特性があるだけです。今回は少し視点を変えて、強度面に関する考察です。それを語るには、竿はどうして折れるのかを理解する必要があります。そして破断リスクに繋がるポイントはどこか、一番折れない継ぎ方はどれか。そんなことを語ります。


そもそも竿はなぜ折れる?

実は竿の折れ方ってパターンがあるのをご存知でしょうか。傷が入ってしまったりとか、外的衝撃とか、ドア挟みとか、不良品とか、何もしてないのに折れた()とかそういう話ではなく、曲げによる折れ方の話です。それを理解するのには、竿というものの構造と、折れるときにどんな現象が起きているのかを知る必要があります。

<チューブラーロッドは縦繊維をメインとしたシート(プリプレグ)を巻いて作られている>

ソリッドブランクを除いたほぼ全てのカーボン&グラスロッドのブランクは、細〜いカーボン繊維orグラス繊維を特定の向きに揃えて、樹脂でシート状にまとめたもの(プリプレグ)を巻いて作られます。プリプレグは未硬化状態のまま冷凍保存される「ナマモノ」で、これを芯棒(マンドレル)に巻いて窯で焼き、熱で樹脂を硬化させます。

ここでの樹脂の役割は接着剤であり、焼いたあとも繊維構造はそのまま残っています。樹脂はあくまで繊維がバラバラにならないよう繋ぎ止めておく役割のものです。ロッドの場合、基本的にはプリプレグに含まれる縦方向の繊維が張りや反発力を生んでいます。補強構造や横・斜めの繊維を巻かない限り、縦繊維は樹脂によって繋がっているだけになります。接着箇所は、プリプレグ状態での繊維間の接着と、マンドレルに巻いた後にできたプリプレグ層間の接着があります。

メガバスHPより。色々な構造が盛ってありますが、基本はコアにあるカーボンの縦繊維です。

このことから、ロッドが曲げられた時に破壊が起こる可能性があるのは①繊維間、層間の接着が剥がれてしまう、②繊維そのものが曲がりの内側で座屈(圧縮に耐えられずグニャリとゆがんでしまう状態)して破壊される、③それらの複合、が考えられます。

これらがどのように発生するかは、繊維の種類や特性、接着剤の量・質・仕方、肉厚や曲げの角度、曲げの速度や角度など様々な要素が絡んでくるため一概には言えません。ただ材料工学における一般論としては、FRP材料の曲げによる破壊はまず曲げによって圧縮される曲げ内側で①の接着剥離が起こり、それによって強度が低下しそこに負荷が集中することで、②の繊維そのものの破断が連鎖的に起こる、というメカニズムで理解されているようです。

引用元は画像にリンク貼っておきます。材料を曲げると、曲げの外側(図の材料下面)では材料が引っ張られ、曲げの内側(図の材料上面)では圧縮されます。細長い材料は一般的に引張側より圧縮側が弱いようです。特にカーボン繊維は感覚的にもそうですよね。引っ張ってもそうそう切れませんが、逆に押しつぶせばすぐ曲がります。

下記文献より引用。FRPパイプの曲げによる破壊写真。R/tとはパイプ内径÷パイプ厚みで、数字が大きいほど薄肉と思って良い。実験はロッドのファイト時とは逆で、上方向に曲げていったもの。肉厚によって差があるが、基本的に曲げの内側から破壊が起こっている。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/29/317/29_317_120/_pdf

下記文献より引用。こちらはCFRTPという素材の板状のものを上方向に曲げている。ロッド素材とは若干条件が異なるものの、やはり曲げの内側で繊維の剥離と破断が起きている。

http://j-t.o.oo7.jp/lab/t/2011M-tamaru.pdf

この剥離・圧縮・座屈による折れの現象はそれなりに複雑で、チューブラーやソリッドによっても変わりますし、マンドレルの巻き方によっても結果は変わるはずです。素人がそこまで追求するとおかしくなりそうですので、このあたりで留めておきます。

web上で引用できる文献にはあまり良い画像がなかったのですが、上記のようなメカニズムで限界を迎え破壊された場合、経験的に見た目としてはきれいにパキッと折れるように感じます。連鎖的に広がる繊維の折れが、最初に破壊されたところからきれいに広がっています。よほど弱い造りや不良品、傷の入ってしまった状態でない限り、これは竿がブランクのその部分の構造的限界に達するほど曲げられた証拠といえるかと思います。

ダイワSLPのHPより。リンク先も参考になります。

ちなみに局所的に弱いところがなく、かつ負荷をロッド全体にきれいに分散して限界を迎えると、複数箇所で同時に折れることがあります。個人的にも経験があります。パスタが真っ二つに折れず、1箇所の折れから振動が伝わり他の箇所も折れてしまう現象を研究した話が昔話題になりましたね。ロッドも同じです。バラバラに折れた!とクレームつける方は、むしろ良い設計をしてくれたと褒めるべきでしょう。

※必ずしも分散したからいい竿というわけでもないです。また使い方によって局所的に負荷をかけてしまえば意味はありません。

エバーグリーンの宣伝動画。T1100Gモデルの折れ方が見事です。別にT1100Gでなくてもこうなりますが…。

下記がパスタの記事です。おそらく理屈は近いものだと思います。ねじると2つに折れるようになるというのも面白いですね。

また主たる折れの原因ではないものの、経験的には、ブランクが潰れることで①の繊維剥離が主な原因で折れてしまうケースもあると感じています。その場合、下の画像のように裂けたような折れ口になります。

裂けて折れる
my竿の耐久テストで無茶させたやつ。薄肉グラスチューブラー。補強構造がないとこんな感じで折れやすい。
ゼナックHPより。先に述べた一般的な折れメカニズムを理解した上だと、誤解を与えそうな画像ですね…。私も勘違いしてました。

上の某ロッドメーカーによる説明は、このような裂けに対する説明だと理解できます。ただこれが全ての折れパターンではないように感じます。私の経験では、このパターンは潰れに対する補強構造が少ない(&繊維自体は折れにくい)竿で起こります。また多くの竿には継ぎ目があり、継ぎ目はそのままでは裂けやすくなっていますので、対策が十分でないとこの裂け破壊が起こります。

このような折れ方のメカニズムを踏まえ、それぞれの継ぎ方においてどの部分にリスクがあるかを見ていきましょう。

印籠継のリスクポイント

印籠継

継ぎ目部分の断面模式図に、リスクのあるポイントを記しました。リスクの種類によって色分けしています。「折れ」とは先に示した繊維の接着剥離と繊維破断の複合による一般的折れのメカニズムによる破壊のこと、「裂け」とは繊維の接着剥離による破壊を示します。

①は主に継ぎ目周辺の強度がありすぎる場合にリスクがあるポイントで、継ぎ目が曲がらないことにより荷重が集中してしまいます。模式図だと継ぎ目に近いですが、実際は継ぎ目と継ぎ目の中間や、曲がりの頂点で折れます。

②はブランクの内側に印籠芯(フェルール)の末端がきている部分です。フェルールとブランクが重なっている②~③のエリアは、他より分厚くなっているため他のエリアより潰れにくく、曲がりにくくなっております。①~②は素のブランクなので、②~③のエリアより潰れやすく曲がりやすいです。そのためその境界である②の前後で物性が大きく変わってしまい、境界に強いストレスがかかります。また曲げの外側では、フェルールの角がブランク本体に刺さるような状態になってしまいます。私も過去の自作パックロッドで破損してしまったのはこのポイントが多かったです。対策方法はいくつかありますがそれは別の記事にて。

③はブランクの末端が開放されており、裂けやすくなっています。ただし通常はプリプレグの巻き数を増やしたり、スレッドを巻いたりして裂けを防いでいますので、まともな設計の竿でしたらさほど問題にはなりません。

④はフェルールの強度不足による折れです。これは市販品であれば論外だと思いますが、現実にはこのリスクが大きい竿も売られています…。厳密には裂けもありえますが、まぁ折れがほとんどかと思います。

また②、③の位置ではフェルールにも負荷がかかるため、②の位置でフェルールが潰れ裂けたり、③の位置でブランク本体の角で圧縮され折れてしまったりします。

逆並継のリスクポイント

逆並継

逆並継も①、②、③については同様です。違うのは④で、バット側のブランクに②と同様の「潰れやすさ・曲がりやすさの差、及び芯側が外側に食い込むこと」によるリスクが出てきます。

並継のリスクポイント

並継

基本的には逆並継とリスクポイントの内容は同じですが、位置が変わります。リスク内容と番号を逆並継に合わせて記載しております。

どの継ぎ方が一番丈夫なの?

どの継ぎ方も、まともな竿なら適切な対策がされておりますので、どの継ぎ方が絶対的に弱いということはありません。ただ、印籠継は図の通りリスクポイントが多いため、対策がそれなりに大変です。できないわけではなく大変、という意味ですが。

その上で、継ぎ方の影響が大きいパックロッドを想定して逆並継、並継を比べてみます。前の記事(最後にリンク貼ります)の内容を踏まえると、並継はバットパワーを出しやすいため、竿全体としての強度は高く作りやすいと言えます。折れやすいティップ部も肉厚気味になるので安心感があります。またハイテーパー(ティップとバットの太さの差が大きい)は軽量「感」が出しやすく、印籠芯の重さが加わる印籠継はもとより、逆並継に比べても軽く感じる、イコール強度アップしても待ち重り感は少なくて済みます。逆並継ですとバットの強度は厚みやテーパーで出せるものの、ティップは太めになりやすくその分薄肉になりがちです。海外の釣りを見据えた強度自慢のロッドには並継が多いことからも、比較すれば並継が強度面ではやや有利だと考えています。

ついでに言えば、感度においてもハイテーパーの方が一般的に高感度になりやすく、パックロッドの弱点を補います。並継は総合的にみてパックロッドに向いた方式と言えます。

※ただし!上の並継の絵を見て頂くと、なんとなく弱そうに見えるのではないでしょうか。実は並継を理屈通り強い継ぎに仕上げるには、製法に工夫が必要なようです。詳しくはそのうち記事にします。

どう対策するの?

下記の記事で市販竿で行われている補強技術、印籠自作時のコツなどを解説しています。

竿の取り扱いには気をつけないと

余談ですが竿の折れ方についてかじってみると、竿の取り扱いには十分注意しないと、と思います。たいした傷でなくても、局所的に弱いところがあればそこに負荷は集中し、破壊が一瞬で広がります。保管時の竿同士のぶつかり、竿の置き場所、根がかりルアーを外す際のヒット、砂の付着など、ちょっとしたことでも折れに繋がるダメージになりえます。とはいえ現実の使用においてはそういった竿に対するダメージは少なからず起こるので、せめて気をつけられるところは気をつけながら使いたいですね。ロッドビルディングにおいても各パーツの取付などで工夫できるところはあります。

お読み頂きありがとうございました!

①の記事はこちら