パックロッドマニア的チタンティップ論

2021年2月8日ロッドビルド論

最近ビルドしたパックロッドには、かなりの確率でチタンティップを採用しています。チタンティップといえば、アジングロッドビルダーさんがこぞって採用している超高感度高強度素材として知られています。近年は量産メーカーでの採用率も増えてきました。

※どうもダイワが保有していた特許が数年前に切れたようで、市販チタンティップ竿が増えたのはそのためのようです。

これまでのチタンティップは一部の例外を除き、ルアーロッドではライトゲーム向けの素材でした。しかしパックロッドにおいてはその限りではないと感じており、実際にビッグベイトすらチタンティップで扱っています。この記事ではそんなチタンティップが持つ可能性と、実際のセッティング方法、調達方法などをご紹介します。

チタンってどんな素材?

まずここで重要なこと。ロッド素材として言われているチタンは、純粋な金属チタンではありません。チタンとニッケル(用途によってコバルトや銅も)の合金を熱処理した「形状記憶チタン合金」のことです。ただの純チタンやチタン合金はいわゆるチタンティップとしてイメージするような超弾性特性を持っておりませんのでご注意を。

細かい物性や理屈は置いておきますが、形状記憶チタンは普通の金属にない特性として、常温域(素材により大きく変わるが10〜100℃程度)でしなやかな弾力があり、かなり曲げ込んでも折れずに復元します。

ロッド素材としてみた場合、どのような特性があるでしょうか。

1.弾性

古河テクノマテリアル社の資料によると、形状記憶チタンの母相(マルテンサイト相=常温無負荷の状態)のヤング率(引張弾性率=カーボンロッドでいう弾性率のこと)が40,000〜70,000MPaとのことです。もちろんメーカー毎に差がありますが、単純計算だとカーボンでいう4〜7㌧(tf/mm2)に相当します。数値だけでいえばロッドに使われるグラスと同等〜やや小さい数字です。

ただし形状記憶チタンの場合は、温度や負荷によって相変化(変態)が伴うため、常に一定ではありません。またそもそもカーボンやグラスは繊維を束ねて接着してブランクにしていますので、完成した竿自体の弾性率は素材と同じではありません。結局同列では語れないのですが、実用における感覚としてはグラスソリッドとグラスチューブラーの中間くらいの弾性「感」かと思います。

2.重さ

これも弾性と同じで単純比較できませんが、参考までにカーボン繊維の比重(密度)は東レのトレカで1.8g/cm3前後、グラス繊維はEグラスSグラスで2.5前後、これに対し形状記憶チタンは6.5前後です。竿として必要な硬さで比較する場合はここに弾性も影響しますので、相当に重い素材といえます。

3.強度

これは形状記憶チタンが圧倒的に有利です。まず曲げに対しては、カーボンソリッドやグラスソリッドもかなり曲げ込める素材ですが、形状記憶チタンは更に曲げ込めます。もちろん限界はありますが、適切な使用においてチタンティップ自体が折れることはまずありません。またカーボンやグラスが弱い、打撃、圧迫、摩擦、高温などの負荷に対してもかなり耐えてくれます。

4.感度

これも単純比較はできませんが、同じようなしなやかさを与えた穂先であれば、カーボンチューブラーやカーボンソリッドに比較して、振動が大きく・高く・長く響く感覚があります。ただし絶対的にチタンの方が感度がいいというわけではありません。「柔らかいのに手感度がいい」というのが比較的正しい表現だと思います。穂先を柔らかくすると基本的に手感度(反響感度)は悪くなり、実用的な強度も厳しくなりますが、形状記憶チタンの場合は柔らかく仕上げてもよく響き、強度も保てるのです。単純な反響の大きさでいったら、パリパリのカーボンチューブラーの方がいいと思います。ただそれでは食い込みの良さやテンション感度、目感度が阻害されます。なお良くも悪くも響き方はカーボンとは違う印象です。

※脱線しますが、感度にも色々あります。この記事では以下の3つに分けて語りたいと思います。

◆手感度・・・手に伝わるアタリや底質などの振動を感じること。反響感度と言われるものとほぼ同義。

◆目感度・・・穂先の動きを見ることでアタリや潮の動きを感じること。

◆テンション感度・・・潮の流れ、リグの存在などを重みとして感じること。穂先のもたれ感で感じるのでもたれ感度と呼ぶ人も。

5.その他デメリット

その他固有のデメリットとして、低温になると弾性が失われてしまうため極寒では使用できない(形状は記憶しているので温まれば戻ります)、クセがつきやすい、ガイドを接着しにくい、柔らかすぎるために操作性が落ちる・根がかりしやすい、といった点は注意する必要があります。また流通価格は長さと径に対し高価です。

これらを総合すると、形状記憶チタンのロッドにおける特性はこのようになります。

極めて丈夫でかつ柔らかいのに感度が良いという繊細な穂先に向いた特性だが、相当重く張りも弱いのであまり長くはできない。

なぜパックロッドにチタンティップなのか

上記のような特性は、特にアジングのようなライトゲームロッドの穂先で活かされてきました。食い込みの良さや目感度、テンション感度を求めていくと、穂先は取扱注意なレベルで細くなり、また手感度も落ちます。チタンティップはそれらの問題をまとめて解決してしまいます。食い込むのに感度がいい、柔らかいのに丈夫、そんな一挙両得な竿を作ることができます。そのためアジング以外の用途も、一部を除いてメバルやトラウトなどのUL以下の竿で使われています。

しかし…!私はチタンティップの可能性はそれに留まらないと感じており、特に今メリットを見出しているのがパックロッドへの応用です。ではパックロッドに採用するとどのような利点があるでしょうか。

1.携行時の破損リスク低減

パックロッドの真骨頂は携行のしやすさ。しかし最大のリスクもそこに潜んでいます。移動中の振動でブランクス同士がぶつかったり、電車でお隣さんに踏まれてしまったり、何かの拍子に落としてしまったり…パックロッドは過酷な環境で使われます。そんな時に一番折れやすい穂先がチタンでできていると非常に安心です。特にテレスコ竿においてはトップガイド付け根からポロっというトラブルが多いのですが、そのリスクもかなり低減されます。

テレスコの穂先
パックロッドの穂先は常に破損リスクにさらされます

2.感度を補える

パックロッドは強度を求めるためと設計の制約により、どうしても感度とトレードオフな部分があります。弾性、厚み、テーパーを決めるにあたり、制約の中で感度をデザインすることになります。そこでチタンティップを使うと、感度を総合的に高くバランスさせることができ、ワンピースロッドに負けない使用感を得ることに繋がります。

3.短い竿が多いのでバランスが気にならない

パックロッドは継数と重量バランスの問題から、比較的短めの竿が多いです。今でこそ10ftオーバーで仕舞60cm未満の竿なども登場していますが、基本的に7ft以下が多いです。そのためチタンティップの弱点である、「穂先が重いことによる重量バランスの悪化」は最小限です。むしろ適切な設計をすることで、曲がりにくい短竿に適度なたわみを与えてくれます。そしてそれが④のメリットに繋がります。

4.適合ウェイトの広さ

ちょうど良いチタンティップのセッティングを探していくと、自然と穂先先端はよく曲がり、チタンの重みをある程度強いブランクが支えるセッティングになります。すると、軽いリグのキャストでは柔らかい穂先先端が曲がりつつ、チタンティップ自体がウェイトの役割を果たして竿全体も曲げてくれます。逆に重いリグのキャストでは強いブランク本体が重みを支えてくれ、かつ穂先の破損もありません。広いウェイト範囲に適合するというのは、一本のパックロッドで様々な釣りをこなせることに繋がります。

5.魚の挙動をリアルに感じられる

旅における魚との出会いは、たとえありふれた魚種でも、たとえ小さな魚であっても嬉しいものです。また知らない場所での1匹は貴重であり、なるべく1匹の感動を深く味わいたいものです。そんな場面において、チタンティップはファイト時の魚の挙動がはっきりと手に伝わってくるため、非常に釣り味が良いのです。

チタンティップのセッティング

さて、それでは実際にどんなチタンティップを継ぐべきか検討してみましょう。基本的には手に入るソリッド材で作るしかないので、他の素材のように弾性やら巻き方やら厚みやら考える必要はなく実はシンプルです。考える要素は、長さ、テーパー、太さ(硬さ)の3点のみです。

では、それぞれの要素は竿の性格に対しどのような影響があるでしょうか。以下に基本をまとめます。

長さ
短い方が良い
振り抜き感、キャスト後の収束、操作性、ロッドバランス
長い方が良い
軽量リグの重みを乗せたキャスト、手感度、テンション感度 

テーパー
キツい方が良い
振り抜き、キャスト後の収束、操作性、手感度
ユルい方が良い
軽量リグの重みを乗せたキャスト、テンション感度

ブランク本体に対する硬さ
硬い方が良い
手感度、重めのリグ・負荷に対する対応力、アクションの綺麗さ
柔い方が良い
目感度、テンション感度、軽量リグの重みを乗せたキャスト、食い込みの良さ

もちろんこれにガイドセッティングなども絡みますが、基本的には上記のような傾向になるところをうまくバランスさせていくことになります。

テーパーについては、基本的にはある程度急角にしていかないと、ブランク本体と曲がりの違和感が出やすく、またダルくなりがちです。段付きテーパーで仕上げることもでき、穂先に仕事をさせつつ綺麗な曲がりにするには有効です。

長い方が、というのは全長の中で占める割合が、という意味です。5ftの竿に1ftロングチタンを足すと6ftで手感度が良くなる、というわけではないです。重ダルでむしろ感度は落ちるかもしれません。(やったことないのでたぶん。)

ということでパックロッドにおける基本設定としては、ある程度急テーパーで振り抜きの良さと汎用性を持たせつつ、ブランク本体との違和感が少ないまとめ方にしています。

あまりにブランク本体とチタンの曲がりが違いすぎる(への字に曲がる)と、ブランク本体が仕事をしなくなるのでトータルで考えないといけません。仮にチタン15cmとったとしても、穂先から15cmってまだまだベリーというよりティップの部位ですから、チタンだけ曲がってしまうのはイマイチです。強度的には余程極端でない限り大丈夫ですが、見た目も悪いですしね。

実践例No.1 超ショート超万能テレスコ

チタンティップ採用テレスコ
チタンティップ

このブログで度々登場する仕舞20cm、全長4ft11inの超小継テレスコロッドです。これには接合シロを除いて長さ8cm、外径が1.5mm→0.9mmというチタンティップの常識としてはかなりショート・ハード・急テーパーなセッティングを採用しています。

これに求めたのは究極の携行性と汎用性であり、実際に使用したルアーは0.5gジグ単から、2oz級ビッグベイトまでと常識を超える適合の広さです。さすがに2ozとなるとブランク本体の限界ギリギリですが、穂先は違和感なく対応してくれます。逆にジグ単では、さすがにテンション感度は期待できないものの、アジングがしっかり楽しめるキャスタビリティ、手感度、ファイトを実現しています。もちろんブランク本体の汎用性もありますが、この穂先セッティングに出会えなければ完全には実現しなかったものです。

チタンティップによる抜群の汎用性
ビッグベイト鯉からジグ単豆アジまでこなすのだ

実践例No.2 渓流ベイトフィネステレスコ

渓流ベイトフィネステレスコ
渓流ベイトフネステレスコ
トップ~1番ガイド迄がチタン

これもNo.1と同じブランクを使っていますが、狙いが全く違うのでご紹介します。こちらは接合シロを除いて全長12cm、径は1.5→0.9mm程度に落ち着きました。

最大の狙いは携行時の破損リスク低減です。高巻きでのリスク低減は、源流フィッシングにおける最大のメリットになります。そしてNo.1のようにかなりのウェイトを背負えるパワーのあるブランクを曲げていきつつ、鋭い低弾道キャストを決めるための重さを確保するためでもあります。ルアーもシンキングミノーのトゥイッチなどが主体になるので、エキストラファーストよりはレギュラー気味で張りがある方がよく、アジング向けより緩め硬めのテーパーデザインにしています。とはいえ収束が悪いのもキャスト感を悪くするので、ギリギリを狙っています。

同じブランクスとは思えないほどNo.1と2は違う竿になっていますが、どちらも形状記憶チタンの良さをなるべく活かしたセッティングです。

その他セッティングQ&A

1.どれくらいの長さがいいの?

アジングなどのライトゲーム用で考えた場合、個人的には接合シロを除いて約14cmを超えたあたりから、ダルさや重さがデメリットとして大きくなってくると感じます。しかし長さによる各感度の向上も捨てがたく、長くて18cmくらいまではアリだと思います。

パワーゲーム寄りになるとより短めが向いている印象ですが、一概には言えないので色々試してみて下さい。正解は様々ですし、前述の通りカーボンなんかより考えることはシンプルです。

なお補強を入れつつ40cmというのを一度試しましたが、そこまで伸ばすと極端にダルダルなものの、特殊用途においてはアリかなとも感じました。

2.接合シロはどれくらい?継ぎ目で気をつけることは?

竿の強さ、ブランク強度、接着するかしないか、テーパーなどにもよりますが、だいたい1.5〜2cm被せてあげると良いと思います。印籠継風にマルチピースとして継ぐのであれば、3cm以上必要です。そして継ぎ目の補強はしっかりと。チタンは丈夫ですが、ブランクがその負荷に負けてしまうことがあります。スレッドやカーボンロービングでしっかり巻き、ガイドを接合部に乗せるなどしましょう。

3.どうやって削るの?

これはそのうち別記事で書きますが、電動ドリルや旋盤でチタンを掴み、ダイヤモンドやすりや砥石を使って挟むようにして削ります。ポイントは摩擦熱が入って物性が変わらないよう、濡らしながら削ることです。削っているとかなりの高温になるので、最悪は形状記憶がリセットされてしまいます。

4.どこで買うの?

私は1.5mm以下なら吉見製作所で購入することが多いです。専門メーカーであり、イシグロなどにもOEMしています。また穂先用以外にも様々な材料を扱っているので、工作意欲を掻き立ててくれます。

それ以上になると、吉見さんもストレートものは多少扱っていますが、テーパー材は国産ではほとんどありません。しかし筏竿用穂先として中国製なら出ています。使ってみて特に問題はありませんでした。輸入が恐ければアマゾンなどから、抵抗がなければAliExpressなどで検索してみて下さい。グラスと継いであるタイプもあるのでご注意を。

チタンチューブラーの可能性

ここまで敢えて書きませんでしたが、形状記憶チタンは基本的にソリッド材しか実用になっていません。ダイワのSMTTやがまかつのテクノチタントップは例外ですが、個人ビルダーが入手できるテーパー付きチタンチューブラーは今のところ存在しません。チタンのデメリットを一気に克服し、革命を起こす素材になると思うのですが、難しいのも仕方ありません。なので私は…

並継状に2本のチタンチューブラと1本のチタンソリッドを継ぎ、更にそれを削り込んで擬似的なテーパーチタンチューブラーを作成しました。具合はすこぶる良いです。感度良好、ロッドバランスの悪化最小限。が、コストと手間は考えたくないです…。

いくらかかったかは吉見製作所さんのウェブを見てね…。

吉見製作所さん、いつか販売してくださいね…。