アウターリングガイドシステム -O.R.G.S. オルグス- のご提案

2022年10月2日ロッドビルド論

スパイラルガイドセッティング…ベイトロッドのガイドセッティングにおいてメリットが大きく、TULALA×前田製作所のHD-DIVセッティングが公開されてからは自分なりに解釈しつつ真似させてもらっています。

このセッティングの利点はいくつかありますが、ブランクがあまり曲がらないバット部でライン旋回が完了してしまう点は特に気に入っています。原案に忠実であるならば、旋回後は小径・多点・等間隔のガイド配置となるのですが、別に大径・少点でも良いわけです。通常のストレートガイドでは曲げたときのラインのブランクへの接触を考慮しないといけませんが、バットで回し切ってしまえばその後は気にせず配置できるため、セッティングの自由度が圧倒的です。これはビルダー的には気持ち良いものです。PEメインの使用であれば、あまりデメリットを感じないため採用率は高くなっています。

しかし唯一気になる点としては、横向きになるガイドをどうするかです。ラインをブランクに干渉させない、ラインをバタつかせない、なるべくラインに角度をつけない、なるべく放出抵抗を抑え、可能な限り小さく軽く、しかし竿を曲げたときに捻れないように…。要求タスクが多いのです。

そして竿という嗜好品にとって最重要である「見た目」。正直横向きガイドが美しいとはいえません。これらの課題を解決する方法を模索していました。

そこで考案したのが、今回のタイトル「アウターリングガイドシステム -O.R.G.S. オルグス-」です。

1- O.R.G.S.とは

説明するより画像でお見せするのが早いです。

アウターリングガイドシステム ORGS
アウターリングガイドシステム O.R.G.S.

上向きガイドと下向きガイドの間、旋回部分にSiCリング(フジ製ガイドから取りだしたもの)をブランクに2つ被せています。ラインはこのSiCリングの外周を滑るように放出されます。

なにか特別な技術があるわけではなく、コロンブスの卵的な発想の転換です。しかしこの具合が大変宜しく、まず放出抵抗が減ってよく飛びます。またフレームレスかつコーティングの樹脂量が少ないため軽量です。そして見た目がスッキリしています。左右好きな方にスパイラルさせられるので、利き手等に依らずお好みで回せます。竿をフルに曲げても、ガイドが捻られて負荷がかかることがありません。これまでの課題を一挙に解決してくれました。

ベイトアジングの記事に載せていたキャスト動画、これ実はORGSのテストロッドでもありました。たぶん私の知る限りでは初の方式です。(もし先駆的なものがあればぜひコメント等でご教示下さい。)逆に何で今までなかったんだろうと思うようなものです。

プロトロッド試投。0.5gジグ単が15m以上飛行

2- O.R.G.S.の注意点

前述のようなメリットの多いアウターリングガイドシステムO.R.G.S.ですが、決して万能ではないと考えています。以下に現時点で考えられる主な注意点と対策を記しておきます。

①配置と個数

当然のことながらロッドは曲がるものです。そのためベンドした状態でも、旋回するラインがブランクに当たらないよう配置する必要があります。

具体的には2〜3個のリングをロッド特性に合わせて配置する方法か、リングの代わりに形状記憶チタンワイヤーなどをらせん状に巻きつける方法が良いと考えています。

アウターリングガイドシステム ORGS
曲げていくとブランクとの接触点はかなり変わる

いずれの方法にしても配置は慎重にしなければなりません。また特性的に向いている竿としては、バットがあまり曲がらない竿、そしてHD-DIVのようになるべく短い区間で旋回させるセッティングの竿が挙げられます。その方がラインとブランクの接触点の変化は小さくなります。逆にそうでない竿では、本来シンプルさが美点であるORGSをゴツいものにしてしまいます。

②専用リングが存在しないことの弊害

なるべくシンプル軽量に仕上げるのであれば、リング内径とブランク外径は近い方が良くなります。ラインの放出もよりストレートに近くなります。しかしあまりにピッタリなリングを装着してしまうと、ブランクが曲がった時にブランクの潰れをガイドが邪魔してしまい、応力集中で折れる危険性があります。あまりピッタリすぎるとそもそもラインとブランクの干渉が起きやすくなるので、適度な隙間が空くサイズを選んだほうが良いでしょう。私の場合、暫定的にブランクとリングの隙間を弾性接着剤で埋め、その両脇をエポキシコートするようにしています。この点はまだまだ研究事項です。

また上記にも関連しますが、ガイド径についてはフジなどが販売している中から選ぶしかなく、丁度良いサイズがない場合があります。あまりに隙間が空きすぎると、見た目的にも重量的にも不利になります。特に大きめの番手はサイズバリエーションが少ないので、ブランクに合わない可能性があります。こればっかりは運次第です。

そしてSiCガイドリングは当然ながら外周とラインの接触を想定しておらず、外周は鏡面研磨がなされていません。エッジも立っているため、気になる点ではあります。一応、鏡面研磨とエッジについてはテスト段階では特に問題なかったので、フジ製をそのまま使っています。ただし今後、角落としと研磨をメニューに加えないといけなくなるかもしれません。

2022.12追記:トルザイトは外周も研磨されています。また一部の中華製セラミックも同様のため、それらを使う場合もあります。

アウターリングガイドシステム ORGS
どうしてもエッジは立ってしまっている。ただし体感するほどのデメリットは今のところ見られない。一応角落としも試したが、やるに越したことはない程度と判断している。

これらを考慮の上、ORGSがいいのかHD-DIVがいいのか他のセッティングが良いのか、向き不向きも踏まえて考えて頂ければと思います。

3- ガイドセッティングを自由で面白い世界に…

本件に関してブログ記事にまとめたのは、これをキッカケに色んな方に試して頂いたり、新しいアイデアや改善のヒントになって頂くことで、よりロッドビルディングの世界が深まり、それが巡り巡って私自身の発見と刺激になればと思うからです。
ORGSはまだまだアイデアベースの赤ちゃん技術です。ぜひこれをより良いものに昇華していってほしいです。(いずれフジがそれ用の外周研磨&面取り済リングを売り出してくれればいいなぁw)
そのため、ORGSについては流用・参考・改良すべて自由です。私個人として特許を取得する気もありません特許を取るほど万能普遍的なものでもないし、儲かるものでもないと思っています。もしかしたら既に考案されていた方もいるかもしれませんし。
※2022.12追記:SNSで過去に試されたという方に出会えました!やはり偉大な先人はいらっしゃるのですね。
できれば使ってみた感想や改善点など、コメントやSNSで頂きたいなと思っています。強制できるものではありませんが、ぜひ宜しくお願い致します。より良いアイデア、まったく新しいアイデアが浮かぶよう交流しましょう!

なおメーカーに対してですが、特許を取らない以上は、仮に連絡なくパクられても権利主張はしません。もしかしたら同時に思いついていたかもしれません。(私がORGSについてSNSで初めて記したのは2021年の秋です。)但しこの記事投稿以降に、しれっと真似してくるメーカーがあったら「あっ、ふ〜ん…」とは思います。その時は個人的に、ダッセ〜メーカーだなぁと思っておきます(笑)

願わくば釣具で食ってるプロなのですから、メーカーには素人の色物アイデアなど蹴散らすような一歩進んだシステムに昇華したものを発表してほしいです。

4 第一号ORGS搭載ロッド

ストとしては何本かに搭載してみていましたが、仕上げた竿としては下記が最初なのでおまけとしてご紹介します。

コンセプトは、本気のベイト使いが望んだ究極の軽さ・テイクバックが取れない環境での遠投性能を具現化したエリアトラウト竿です。全長5ft6in、重量21.0gとスペックでも相当尖っています。

NFC製50tスローアクションブランク、超大径ガイド、そしてORGSで、0.5gジグ単を15m以上飛ばす驚異的遠投性能を誇ります。ブランクは40t+50tの超高弾性フライブランクであるノースフォークコンポジット製FAF4番の#1,2を使用し、そこに高弾性ショートソリッドとグリップ部ブランクを接続しています。

エリア竿として機能する柔らかなスローアクションながら、反発力に富むこのブランクを、マイクロスプーンを使い、後ろに振りかぶるスペースがない中で短いテイクバックで曲げ切って飛ばす。これがオーナー様が求めた性能です。そこで現代ではビッグベイト級ともいえる大径6番SiCガイドを搭載しました。フットは曲がりを損ねないよう極限までカットしつつも、ガイド自体の質量がかなりあるので、極軽量ルアーでもブランクを曲げてくれるようになります。このセッティングができたのも、ORGSによりバット付近で旋回を完了しているからこそです。

大径6番ガイドを少点配置

きれいに収束させるには腕が要りますが、使いこなすと抜群の飛距離が得られます。前述のテストロッドの完成版がこれなのです。オーナー様技術に信頼があったので、それを信頼して扱いやすさより極限性能に振ったセッティングです。

感度と軽さもオーナー様の拘りだったので、気合入れています。とはいいながらも最軽量チャレンジではないので、以前行ったアンダー14gアジングパックロッドのノウハウを活かし、5g程度は強度やバランス、感度設計に割いて総重量20g前後を狙いました。結果がフル重量で21.0g、リアグリップ外して18.6gというところです。

グリップは極薄のカーボンパイプをブランクにオフセット接着。アーバーレスを実現しています。フロントフードはフルカーボンスクラッチの固定式。リアフードはトリガー一体式のカーボンフルスクラッチで、リアフードに被さるような形状でつくったスクリューもフルカーボン。ネジ山はスレッドで製作。

スクリューをトリガーに被せて固定。トリガー兼フードにもネジ山は切ってあるので取り外し可。パイプ側にも最小限の肉盛りでリールフット台座を設けてある。スレッドによるネジ山は最小限であるが、より負荷のかかるフロントフードは剛性が高いので安心。

リアグリップは重量バランスとキャスト時の収束をアシストしつつ、振動を持続させるための反響機構となります。取り回しと軽さを重視するなら外し、感度とバランスを重視するならそのままと使い分け可能です。振動の持続時間は自分の組んだ竿では最長クラス。マイクロスプーンの水流もはっきりと感じられます。キャスタビリティと反響特性から、ベイトアジングにも適用可能です。
デザイン面は黒で渋くまとめてほしいとの依頼に合わせましたが、無骨過ぎないよう一部にラメを入れて整えています。

リアグリップはGクラフトの折れ竿から製作。外すと感度が落ち、振り込み時の収束も悪くなる。ただし軽快感とスペック上の軽さは増す。

今後も色々と試してみて、より進化を目指します。改めて、まだ発展途上の技術です。ご覧になった皆様のアイデアとチャレンジを楽しみにしています。